人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ネットの豆腐販売

 

何でも売れる時代だが、豆腐!?とは驚いた

 忙しさに紛れて気づかなったが、現在では町中で豆腐屋さんを見つけることはまずない。スーパーの豆腐よりも、断然美味しいとわかっているのに、面倒なので、店の方向にはわざわざ足が向かなかった。そのうち、大豆の味がどうとかなんて、こだわりを捨てたら、スーパーにある豆腐で十分だと思うようになった。事実、スーパーで美味しい豆腐を見つけたこともあった。「あった」と過去形なのは現在ではもう売られていなくて、いつでも買えると思っていたら、突然店から消えてしまったからだ。それはあるスーパーの独自ブランドの『低温冷製豆腐』、まあ、そんな名前だったと思う。小さな四角いバックが3つセットになっていて、何処のスーパーにも似たような商品はあったが、それは違っていた。

 だいたいが、口に入れるととろけてしまうくらい、柔らかい。まるで、とろふわのプリンのようだと錯覚した私は、それをみそ汁に入れるだけでなく、そのままおやつとして食べていた。いや、甘いプリンよりも、生クリームのような食感のそれの方がスッキリとして美味しいとさえ思っていた。あくまで、私の個人的な感想なので、それが皆に受け入れられたかどうかは定かではない。どんな事情かは分からないし、また、店の人にもわざわざ訪ねるようなことはしなかったが、とにかく、私のお気に入りの豆腐は店から姿を消した。考えてみると、それは3個で198円くらいのものだから、とても原材料にお金がかかっているとは思えない。それに、美味しかったから、いちいち、そんな細かいところにまで気が回らなかったのが本当のところだった。

 近頃は店を持たなくても、ネットで何でも売れる時代だが、豆腐も売れることを知って目から鱗だった。フェイスブックやインスタグラムで話題になっているのは、岡山県真庭市にある、小さな豆腐店が作っている豆腐だ。「小野束豆腐店」の店主、松井美樹さんが週に1,2回作っている、原材料と水にこだわった豆腐なのだ。2015年に東京からかの地で豆腐を作るために移住してきた。小さな子供のいる松井さんは子育ての合間に豆腐作りをしているのだが、豆腐作りの工程にたっぷりすぎるほどの時間と手間暇を掛けていることに、まずは仰天した。

 なんと、午前1時半ごろから準備を始め、午前4時頃から地金で炊き上げる。片づけが終わるのは夕方、というから、なんという膨大な時間を豆腐作りに打ち込んでいるのだろう。まるで、画家が一枚の絵を描き上げるかのように、普通に人が会社で働く以上に労力を傾けているのがわかる。変な話だが、仮に夕方5時に仕事を終えるとすると、約16時間も豆腐作りにかかりっきりになる。そうなると、残りは8時間で、この時間は睡眠時間以外考えられない。これほどの重労働で出来上がった豆腐が美味しくないはずがない。なので、現在90人ほどの毎月買ってくれる固定客がいて、ネット販売という形態の恩恵を受けている。松井さんの豆腐は4丁で送料込みで3160円で、ざっと計算すると、一丁800円ほどになる。この値段を高いと思うか、妥当と思うかは個人の判断に委ねるとして、豆腐屋の仕事は重労働であることに間違いはなさそうだ。

 と言うのも昔、友だちが、「豆腐屋というのは儲かるけど、身体を壊すんだって」とよく言っていたからだ。彼女の母親が妹夫婦が経営している豆腐店を手伝っていて、商売上手なのか、近くに支店までも出すほど繁盛していた。さらにアパートを2件も所有していて、そこにそれぞれ子供4人を住まわせていた。豆腐屋の店主は夜中の2時頃にはすでに起きて作業をしていて、だからと言って夜早く寝るのでもなかった。親戚連中が、「今に絶対、あの人、身体を壊すから」と噂をしていたら、本当にガンになって、あっけなく亡くなってしまった。ガンだとわかる前に、自分の腹部を触って、「ここに何かコリコリした円いものがあるんだ」と家族に話していたらしく、すでに覚悟していたのだろう。

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