人生は旅

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ロシアのチャイが美味しい

今週のお題「好きなお茶」

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アントニ・ガウディが手掛けたキハーノ邸『奇想館』。NHKまいにちスペイン語テキストから。

チャイとはただの紅茶だとばかり思ったら、奥が深くて

 私が初めてロシアのチャイと出会ったのは、もう十何年も前のことです。サンクトペテルブルクにあるエストニアからの長距離バスが発着する駅の側にあるスーパーでした。そのスーパーは駅の前にあるわけではなく、むしろ人目を避けるような場所にありました。ではなぜスーパーがそこにあるのかわかったのか、それは大勢の人が建物の陰から大きなレジ袋を抱えて出て来たからでした。「何だろう?」と好奇心に駆られて見ていると、次々と人がそちらの方に向かって歩いて行くではありませんか。それで確信したのです、何か大きな店があるのに違いないと。

 早速、横断歩道もない道を車に跳ねられないように気をつけながら渡り、大きな建物の陰から脇道に入ると、驚きました、そこにはDENTAという看板の大型スーパーがあったからです。バス停からは全く隠れて見えなくて、まるで別の世界に存在しているかのようでした。スーパーの入口に行くまでには何台もの車が置ける広々とした駐車場がありました。どうやらここはメガスーパーのようで、店内には53台ものレジが並び、リフトで商品の出し入れをしていました。

 スーパーの店内の一角にチャイナ・ローシカというファストフード店がありました。ロシア語でティースプーンという名のその店は当時はサンクトぺテルブルグの街中に溢れていました。甘いのはもちろん、イクラ入りの食事にもなるロシア風クレープが食べられるのですが、特筆すべきはお茶の種類の豊富さです。ただの「チャイをください」の一言で済むと思ったのに、意外にも「茶葉を選んでください」と言われて戸惑ってしまいました。茶葉を選ぶって、それ何?と固まっていると、ブラック(紅茶)かグリーン(緑茶)かどちらにするかということでした。それで断然紅茶がいいと思ったので「ブラック」と答えると、店員が指で差したのは茶葉が何種類も並んでいる棚でした。見ると、そこにはフルーツや花の色とりどりの美しい茶葉が詰まったガラスの容器がありました。それぞれ名前が書いてあるのですが、読めないし、どれにしたらいいのかさっぱりわかりません。でも店員さんはじっと私を待っていてくれるので、どれでもいいかと適当に茶葉を指さしました。

 そしたらこれが幸運にも大正解で、美味しかったのです。それは濃厚な味で今までに飲んだことがない味、絶対にフルーツティーのような軽くて、さっぱりした味ではありませんでした。お茶の色も茶色ではなくて、まさに黒っぽく、茶葉の深い味が余すことなく出ているのですが、それがいったい何なのか謎でした。茶葉の種類が豊富なのが面白くて、グリーンティーの棚を眺めていました。十数種類の茶葉が並んでいて、それらはすべて、日本で見たことのある茶葉と何ら変わりありませんでした。

 当時今まで飲んだことがないお茶に出会えた私は感激し、その後何度もその店に通いました。でも、何年かしたら、その店がスーパーから消えてしまったのです。時代の流れなのでしょうか、人々の嗜好が変わったのでしょうか、手軽な値段で食べられるチキン店に様変わりしていました。気付いたら、サンクトペテルブルクネフスキー大通りからもチャイナローシカの店は姿を消しました。その代わり出現したのは低価格のコーヒーの持ち帰りの店で、人の出入りが激しく繁盛しています。試しに入ってみると、座って飲める椅子もあるのですが、落ち着かなくて私は早々に退散しました。

 「美味しいチャイが飲みたい」という私の願望は叶えられそうもありません。以前スペインのグラナダに行った時、アルハンブラ宮殿近くの通りを歩いていたら、何やら芳醇な香りが漂ってきました。何かと思ったらお茶屋さんでした。店先のいい匂いに惹きつけられて人々が集まってきました。まさに「匂いが美味しい」と思える体験でした。みんなその場で味合うだけで誰も買おうとはしない中、私は茶葉を買ってホテルの部屋で味わおうと思ったのです。つまり、「あの味よ、もう一度!」とロシアのチャイのような味を期待したのです。それなのに、予想に反して私の試みは失敗に終わったのでした。だからこそ、あの当時のロシアのチャイがどうしようもなく心に残っているのです。

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