人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

無人ホテルは予想外に快適だった

コーヒーマシンで、カフェラテも飲み放題

 システムを知れば、何のことはない、無人ホテル(ここでは誰もスタッフがいないホテルのことを言う)は意外に快適だった。私の部屋はダブルルームだったので、清潔で広々としていた。それに各部屋に行く通路には共用エリアがあって、テーブルと椅子が置かれ、コーヒーマシンが設置されていた。もちろん、マグカップも用意されていて、日本なら、紙コップがお決まりと言ったところか。特筆すべきは、そのメニューがバラエティーに富んでいることで、エスプレッソ、カフェラテ、ココア、ホワイトカフェとより取り見取りで、試しにホワイトカフェを飲んでみると、なかなかおいしい。マシーンにしては、信じられないくらい美味しい。それに熱いお湯もでるので、日本から持ってきた、わかめスープやみそ汁、コーンスープを飲むのに使った。

 残念ながら、冷たい水はメニューに無かったので、お湯を冷ましてから、ペットボトルに入れて、持ち歩いていた。つまり、サンセバスティアンではスーパーで水を買う必要がなかった。考えてみると、私は今回も今までも、この地でスーパーマーケットに行ったことがない。街を歩いていて、見かけたこともなければ、探したこともない。それだけスーパーに行かなくても、済んでしまったと言うか、事足りていたのだ。要するに、あちこちに気軽に入れるカフェや飲食店があって、そこでもう満足してしまうので、気が付いたら、「そう言えば、スーパーってどこにあるんだろう」的なことを思ったりする。だが、すぐにそのことを忘れてしまうのだ。

 この無人ホテルに泊まって気が付いたことは、ある時間だけはスタッフがいるらしいということ。普通のホテルでは、部屋の掃除はだいたい昼の12時から3時の間にしていると思うが、このホテルでもそれは同じだった。ある日、私が早めにホテルに戻って来たら、Tシャツ姿の男性が掃除機をかけているところに出くわした。どうやら、これから私の部屋を掃除しようとしているらしい。「後にしましょうか」と尋ねる男性に、「ここに居るから大丈夫」と共用エリアのソファに座って待っていた。しばらくして、「終わったから」と知らせてくれるが、そのあと、「パスポートを見せて欲しい」と言われる。最初は戸惑ったが、パソコンの前に座って何やら確認している様子から、どうやら掃除のスタッフではなくホテルの人らしい。これには驚いた、まさか、自ら掃除をするだなんてことは思いもよらなかった。

 まあ、掃除をすると言っても、掃除機をさらっとかける程度だろうが、それにしても、こんなところで経費節減をしているだなんて。考えてみると、この無人ホテルには2泊したが、一泊の料金は日本円で1万5千円程度で、どう考えても安いほうだ。無人だから安いのだろうか、それとも、それとは関係ないのだろうか。はっきり言って、ここサンバスティアンには、セレブが泊まるマリークリスティーヌのような高級ホテルもあれば、比較的リーズナブルな料金で泊まれるホテルも多く存在している。パリに比べると、とても安く感じられて、パリから逃げるようにここに来た私にとってはまさに天国のような場所だった。

 掃除の話に戻ると、ホテルの掃除のスタッフはベッドメイキングもしてくれて、その仕事が綺麗で完璧だといつも感心していた。ただ、海外旅行に行き始めた当初は、毎日シーツも新しいものに取り換えてくれるのかと思ったら、ある日そうではないことに気が付いてがっかりしたことがある。要するに、1泊でも、7泊でもシーツはずうっと同じものを使うことになる。今ではもうそんなことは気にならなくなって、どうでもよくなった。

 冒頭でコーヒーマシンの「カフェラテ飲み放題」と書いたが、昼間や夕方は皆がざわざわしている音が聞こえて来る。そんなところへ、私が平気で行けるわけもなく、皆が寝静まって、誰もいないと確認できた深夜、それが”私の時間”だった。幸運なことに、私の部屋は、コーヒーマシンのある場所から近かった。ドアを開けて誰もいないのを確かめ、こっそり部屋から出て、コーヒーマシンのところに行き、お湯やカフェラテのボタンを押す。ささやかな幸せを味わった。

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