人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

原子力発電所を見学した日

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

f:id:mikonacolon:20210723151648j:plain

▲アタカマ塩湖に生息するフラミンゴ。NHKまいにちスペイン語8月号から。

バスツアーで見学に参加して、思ったことは

 もう何年も前、新聞にあるバスツアーの広告が載りました。それは新潟の柏崎刈羽原子力発電所を見学して、電気について学ぼうという企画でした。よく読んでみると、20組限定で一泊食事付きで料金は格安の7千円でした。ただし、申し込みが殺到した場合は抽選になるとのことでした。早速申し込みましたが、まさか当たるとは思いもよりませんでした。なぜこのツアーに興味を持ったかというと、その少し前にテレビのドキュメンタリーを見たからでした。深夜の時間帯にやっている番組で題名はたしか「刈羽原発の真実」でした。番組の中で、原子炉のある施設の清掃をしているのは東電社員ではなくて、臨時で雇われている作業員の人たちなのだと訴えていたのをはっきりと覚えています。社員は放射能から安全なところに居て守られているのに、彼らは人間扱いされていないという事実に打ちのめされました。

 彼らは銭湯によくあるようなロッカーのある部屋で着替えをして、長靴を履き、ゴム手袋をはめて作業をします。まるでお風呂屋さんが掃除するみたいにデッキブラシを使って床や壁をゴシゴシ擦っていました。「果たしてこんなことが本当に行われているのだろうか?」目の前の出来事が信じられず呆然として見ていました。頭の中にそんなイメージが付き纏っていた時に幸運にも原発を見に行く機会を得ました。実際に行ってみると、新聞等でクリーンなエネルギーと言われるように見栄えのいい施設でした。原発事故が起こらなければ、安全安心のイメージが壊されることはなかったのです。恐ろしいまでのエネルギ―を孕んだ施設なのに、見た目は広々としていて綺麗でしかありませんでした。スケルトンになった床から原子炉の中を覗く、と言っても本物ではなくてもちろん模型なのですが、そんな疑似体験もできました。原発を見学して何か変わったのかと問われたら、残念ながら私の中ではたいして意識は変わってはいません。でも原発を一度でも自分の目で見るという貴重な体験ができたことは幸運でした。

 ツアーには続きがあって、海の見える公園のようなところでバスから降ろされました。新潟というと、豪雪地帯で寒いというイメージから、夏もさぞかし涼しいのだとばかり思いこんでいました。それはとんでもない間違いで、遮るものなど何もない強い日差しが照り付ける草だらけの場所で2時間も休憩しなければなりませんでした。公園では夏休みということもあって、イベントが催されていましたが、あの暑さでは人はたいして集まってはいませんでした。どこか涼しい場所を捜したのですが、カフェすらありません。仕方がないので、露店の缶ジュースを買って飲みながら、辺りを散策することにしました。じっとしていると暑さが襲ってくるので、紛らわそうとして歩きまわっていたら、目の前に海が見えたのです。それは青い綺麗な、心躍るオーシャンブルーの海ではなくて、暗い闇のような色をしていました。

 人に爽快感を与えてくれるのではなくて、人を絶望のどん底に突き落とすかのような不気味な色をしていました。そんな日本海の無限のような暗さを感じて、思わず目をそむけてしまいました。太陽の強烈な明るさの中で体験するその暗さは人に恐怖すら与えてしまいます。ふと、横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された事件が頭の中に浮かんできました。夢にも思わなかったであろう出来事で、どれだけ怖かっただろうかと想像したら震えが止まりません。その時初めてめぐみさんの事件が自分事になったのでした。

mikonacolon