人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

パパ・ピットリアーノって何?

駅の売店で不思議な食べ物に出会う

 サンセバスティアンの駅で、5年前にも出会ったと思われる売店の店主は、四角い箱に入ったパンをショーケースに並べるのに忙しい。私はそれを良いことに、小さな店の中をあれこれ見て回る。お菓子類の棚を見ると、無人ホテルの共用スペースに置かれていた自販機の中にあったのとまったく同じお菓子があった。私はそれを買おうとクレジットカードで試してみるが、エラーが出て買えなかった。そりゃあ、DCカードだけど、一応マスターカードでだって使えるはずなのに。考えてみると、乗り継ぎのヘルシンキのヴァンター空港でも日本のクレジットカードは使えなかった。例えば、できるだけ安く水を手に入れたいのに、わざわざ馬鹿高い売店の水を買わなければならない。パリの地下鉄駅でもチケットを買うのに使えなかった。これはいったいどうしたことか。憤っても仕方がない。ダメなものはダメなので、すごすごと引き下がるしかない。

 手に入れたいのに、諦めざるを得なかった商品が目の前にあるのを見過ごすなんてことはできない。ホテルの自販機の値段は確か、1ユーロだったが、この売店でも値段は同じだった。棚を見ると、味が3種類あるようだが、一番売れているのは「白ごま」の絵が付いているパッケージの商品だった。細長い棒状のスナックだが、食べたことがないので味は分からないので、余計に想像力を掻き立てられる。これは見逃せない。棚から一つ取って持って、レジへ行こうとするが、さすがにそれだけでは物足りない。先ほど店の外から店主のおじさんの様子を窺っていた時に、ショーケースに何やら見たこともない物体、があることに気が付いた。その得体のしれないものの名前は「パパ・ピットリアーノ」とかなんとかで、パパは間違いないのだが、後ろの部分が怪しい。おじさんが私の間違いを直してくれたのだが、今ではもう正式な名前を忘れてしまった。

 それは形は丸いボールのようなもので、薄いきつね色をしていた。見たところ日本の天ぷらのように油で揚げてあった。でも、果たしてスペインでは何かを油で揚げるなんてことをするのだろうか、と興味津々だった。どうしてもあの中身がどうなっているのか、いったい何が入っているのか知りたくてたまらない。となれば、買うしかなかった。それで、お菓子とパパ・何とかと生クリームがこれでもかと詰まったクロワッサンを買った。生クリームがてんこ盛りのパンは5年前にも買って大正解だった。日本で新幹線に乗るときに、必ず何か食べ物を、例えば、駅弁とかを買うようなノリで外国でも買い物をしてしまう。長距離列車のお供は何か美味しい食べ物と決まっている。とにかく何か買わないと、安心できないと言うか、落ち着かないのだ。

 食べ物を確保すれば安心できるだなんて、相当に単細胞な人間だと呆れられるだろうが、事実なのだからどうしようもない。さて、アルヴィアに乗り込み、列車が動き始めると早速不思議な物体パパ・ピットリアーノを味見する。一口かぶりつくと、中から黄色い物が顔を出した。その正体はお米で、これはもしかしたら、カレー味なのかと思ったら、そうでもなくて、となるとこれはサフランライスなのか。さらにもう一口食べると、中には玉ねぎのみじん切りと、人参や、ひき肉が入っていることが分かった。さしずめ、これはライスボールの天ぷらのようなものだった。ピラフのようなものをボール状に握り、それに小麦粉を水で溶かしてどろどろにした衣の中につけて油で揚げたもの、それがパパ・ピットリアーノの正体だった。透視能力でもない限り、中がどうなっているかなんてことは知る由もないが、なかなか面白いアイデアだ。なんだか面白そうと言うだけでも、買う人は多そうだが、なにぶんまだ朝の7時前なので、その真偽は定かではない。

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