人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

不夜城はなぜ回る

なんだか怖そうな予感、でも実際は面白い

 ある日の新聞のテレビ欄で紹介されていた番組が『不夜城はなぜ回る』だった。私はテレビはあまり見ないので、滅多に番組欄は見ないのだが、その時はなぜか目が留まって読んでしまった。不夜城というと、付き纏うイメージはまず、おどろおどろしく、不気味でなんだか怖そうというのが一般的だ。でもその危ういところが見たくて、どんなふうなのか知りたくて、録画予約をしてしまった。なぜ直接見ないかと言うと、CMが邪魔なのと、じっくり落ち着いてみたいからだ。

 この『不夜城はなぜ回る』は夜中に煌々と灯りが付いている現場ではいったい何が行われているのか?を突撃取材する番組だった。なので、映像はほとんどノワールで、真っ暗闇の中をレポーターの人が勇敢にも突き進む。番組のMCの東野幸治さんに「怖くなかった?」と聞かれても、「好奇心の方が勝ってました」と答えたのには笑ってしまった。彼は根っからの不夜城大好き人間らしく、インドネシア人の血を引くハーフらしい。私は知らなかったのだが、この番組は以前から特番でやっていたらしく、今度からレギュラー番組になったという。

 今回の最初の不夜城の舞台は広島県世羅町の山の中で、何処を見渡しても闇、闇で視聴者の当方はそれだけで不気味で十分怖い。ところが、画面が切り替わると、一転、遠くに無数の光が見えた。あの光は一体何なのだろう!?これらの謎の光の正体を知っているタクシー運転手さんと一緒にワクワクしながら、光を放っている場所へとやってきた。驚いた、そこは何と梨農園で、光の正体は蛍光灯だった!では何のために夜通し梨を電灯の光で照らすのだろう。農産物の生育を促すための電熱栽培というのは聞いたことはあるが、どうやらこの梨農園ではそのためではないらしい。

 農園の経営者の人によると、梨の大敵は夜蛾(よが)で、梨の実を吸われると梨がすぐ腐ってしまうという。つまり無数の謎の光は”防蛾灯”だった。これがないと梨が全滅し、膨大な被害が出るために梨農園にとっては必要不可欠な設備だったのだ。東京ドーム8個分にも及ぶ広大な敷地の梨農園に1700灯もの蛍光灯が闇夜に怪しい光を放つっている。梨の天敵である夜行性の蛾に昼間だと錯覚させるような無数のあかり、それが謎の光の正体だった。ちなみに防蛾灯が活躍するのは7月から10月だけで、それ以外は使っていないそうだ。

 リポーターが農園の経営者の方に「防蛾灯にすることで味も変わるんですか」と何気ない質問をした。すると、袋を付けずに栽培できるので糖度が増すとの答えが返ってきた。梨の実に直に光が当たるのとそうでないのとはやはり味が違うのだ。折も折ちょうど梨の収穫期で、昼間の農園には大勢の人が集まっていた。梨狩りにやってきた小学生たちは興味津々で梨をもいで楽しそうだ。梨の収穫のアルバイトにやってきたシニアの人たちもいて、インタビューすると、皆それぞれ言うことが違っていて面白い。「この仕事は年寄りにはきつい」だの、「膝が痛い」だのと愚痴る人がいるかと思えば、「ここへ来るといろいろな人と話ができるので面白い」などと前向きに捉えている人もいる。目の前の事実は変わらないのに、人それぞれの思いは全く違うのはなぜなのだろうか。

 「シニアになっても、働く理由は何ですか」との質問には、「家に居てもつまらないから」とか、「身体を動かしている方が楽しい」からだとの意見が多かったのには少し驚いた。少しひねくれている私には、お年寄りのちょっとした小遣い稼ぎとしか思えなかったからだ。どうやら梨の収穫現場は仕事の合間に人と出会い、語らうための貴重な場所の役目をはたしているようだ。考えてみると、実に不思議だ。闇夜に光る光を追いかけたら、梨農園に出会い、さらに大勢の人たちに出会えたのだから。不夜城は怖いところ!?という一番初めのステレオタイプな思い込みが見事に氷解したのであった。

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