人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

街角で、何を聴いていますか?

人混みの中イアホンで、どんな音楽を・・・

 NHKで『街角イアホン』という番組を見た。この番組のことを知ったのは偶然で、ちょうどその日の新聞のテレビ欄にクローズアップされていたからだった。と言っても、番組は11時から始まるので、いつもその頃寝ている私にはオンタイムで見れそうにない。それで、録画予約をしたものを翌日見た。なんせ15分程度の番組なので、退屈する暇がない。僅か15分の短い時間に、数えるだけでも5人の男女にインタヴューしていた、今どんな音楽を聴いていますかと。

 実を言うと、街角で、それも人込みの中でイアホンで何かを聞く人たちのことを、理解できなかった。どうして、外に出てまで何かを、例えば、音楽か何かを聞かなければならないのかが、想像つかなかった。だって、街中で耳をイアホンで塞ぐということは、耳からの情報を積極的に拒否しているのと同じことだからで、どう考えたって、危険な行為に他ならない。いつでも音楽を聴いていたい、自分の世界に浸っていたいという気持ちは分からないでもないが、果たして、それは危険を冒してまですることなのだろうか。それとも、根拠のない自信とも言うべき、ろくでもないものがあって、自分だけは大丈夫だと思っているのだろうか。

 でも、今はそんな非難めいたことを言うのはやめて、『街角イアホン』に登場する人たちの声に耳を傾けてみよう。初回のインタヴューの場所は東京の新宿駅前で、さっそく20代前半と思われる女性にマイクを向けた。どうやら彼女は誰かと待ち合わせしているようで、しかもその場所がどこだかわからず右往左往しているところだった。聴いている曲を尋ねると答えてくれたのはいいのだが、おばさんの私にはそのタイトルがわからない。「今、会社の同期の人と待ち合わせしているのですが、不安で仕方なくて・・・」と言いながらも、聞かれた質問に丁寧に答えてくれる姿が印象的だった。

 それと、なぜその曲を聞いているかについては、「不安でどうしようもないので、音楽でもないと・・・」。要するに、自分の気持ちを落ち着かせるために必要なのだと主張したのには、正直言って驚かされた。以前、知り合いから「毎日の生活に音楽がないとダメなんだ、とても生きてはいかれないんだよねえ」などと聞かされたことがあった。なるほど、音楽はそれほど人間の生活に影響を与えるものらしい。でも、それは理解できるとしても、やはり人混みの中ではやめた方がいい、だなんて下世話なことを言いそうになって、口をつぐんだ。

 次の場所は何処かの専門店だろうか、色とりどりのコスメがズラリと並ぶショップで、ある一人の青年にインタヴューした。ふと見ると、彼は店に備え付けてあるカゴにパックなど数種類のコスメを入れていた。「今度、韓国に行って友達と会うので、パックして万全の状態で臨みたいんです」と話し、なんとそのための買い物に来た今のような状況では、アゲアゲの曲を聞くのがお決まりの儀式のようだった。買い物をするにも、それにあった音楽が必要らしい、いやその時の気分にあった音楽を聴きながら選びたいらしいのだ。そうなのか、そんな発想があったのかと、私は開いた口が塞がらない。買い物をするにも、無音では気分が盛り上がらないというわけなのか、あるいは周囲の雑音が鬱陶しくて、邪魔されたくないのか。自分の部屋はもちろん自分だけの世界だが、外に出かけてもなお自分だけの世界を執拗に求めているのだろうか。

 番組には、イアホンで音楽ではなく、ラジオを聞いている人もいた。ひとり暮らしでタクシー運転手をしているという中年の男性は、動物園を見て回りながら、ラジオを聞いていた。それが、あの爆笑問題のなんとかボーイという番組だったが、「ひとりだと、人の声が恋しくなるから」との理由だった。いやはや、街中でイアホンで何かを聞く人にはそれなりの理由があることに初めて気づかされた。妙に納得してしまうのだが、やはり、街中で自分だけの世界に浸るのはやめておいて損はないと思ってしまう。

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