人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ピッポのたび

 

夢に助けられ、希望と勇気が湧いてくる

 刀根里依さんの絵本『ピッポのたび』は『なんにもできなかったとり』に続いて、2年連続でイタリアのボローニャ国際絵本原画展で入選を果たした。以前ブログにも書いたが、前作と同様に読み手の心に深い余韻を残す作品だ。最初私は物語の主役がカエルと聞いて、少し引いてしまった。というのも、子供の頃、小さくてかわいい黄緑のアマガエルは手のひらに乗せられるが、普通のかえるは苦手だった。まあ、ヘビよりはましだったが、できれば出会いたくない相手だった。それで、「カエルかあ~」と少し躊躇してしまった。だが、やっぱりどんな話なのか見てみたい、という気持ちが抑えきれず、図書館サイトで予約してしまった。

 この絵本は2014年に出版され、ほぼ10年が経っていたが、そんな年月など感じさせない新鮮な驚きがあった。題名が『ピッポのたび』というからには、小さなカエルがいろんな場所をある目的をもって旅をすると言う見当をつけた。だが、私などのステレオタイプな予想は絵本を開いてすぐに裏切られた。もちろんいい意味で、嬉しい驚きだった。今回もつくづく思うのだが、絵本と一口に行っても、子供向けの本もあり、大人が読んでも気づきを得らえる本と様々ある。絵本は子どものためだけのものではなく、活字が煩くてどうにかなってしまった時の、一杯の清涼飲料水のような役割も担っている。それに、涙だって流せるので、身体をシャワーで洗い流すのと同じ感覚で、心をリフレッシュさせてもくれる。知らない間に何だか温かいものが心の中にどっと溢れて、それが自然と涙に昇華するという具合に。

 ピッポは子どもの頃に出会ったアマガエルのような、できれば守ってあげたくなるようなかわいい存在のように感じられた。ピッポはいつも一人ぼっちで、さびしくて、眠れない夜を過ごしていた。そんなときはひつじを数えることにしていたが、ある夜、小さなひつじに出会い、付いて行くことにする。なんでもそのひつじは夢を旅することができるという。そう、題名の『ピッポのたび』の「たび」は現実ではなく、夢の中での旅だった。ある意味、心の中のたびで、それは幻であり、移ろいやすくすぐに消えてしまう儚い実態のないものなのにも関わらず、ピッポに希望と勇気を与えてくれた。

 ピッポは夢の中で春夏秋冬の季節を旅する途中、なぜか、「自分はもう一人ぼっちではない」と思うと、ひつじの存在を忘れてしまう。それまで一緒だった、自分にとって初めての大事な友達を置いて、どんどん進んでいく。「もう寂しくない、自分はひとりじゃない」という今まで抱いたことがない自信と幸福感に包まれたピッポは意気揚々としていた。だが、冬の季節に出会った時、ふとひつじのことを思い出した。ピッポは自分にとって大切な友だちを必死に探す。確かに宝物を手にしたと思っていたのに、それがないと気付いたかのように慌てまくって。幸運にも、ピッポはひつじと再会することができた、もちろん、全て夢の中の話である。

 前作の『なにもできなかったとり』での発想力にも目を見張ったが、この『ピッポのたび』でもその才能と言うか、想像力に脱帽するしかない。どうしてこんなこと、考え着くの?どこからこの話のモチーフを生み出すの?と質問攻めにしたいくらいだ。加えて、美しくて、いつまでも眺めていたいと思わせる繊細で情緒あふれるイラストレーションに否が応でも惹きつけられる。言うまでもなく、ピッポは夢の中ではもう一人ぼっちではなかったが、夢から覚めたら何のことはない、一人ぼっちのままだ。だが、ピッポの心にはひつじという現実には存在しない友達がちゃんと居て、いつでも心の支えとして存在している。もはや、本当の意味で、ピッポはひとりではなく、それどころか、ひつじに希望と勇気を貰って、強くなった。

 最後にこの絵本にある美しいイラストの写真を2,3載せて置こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

mikonacolon