人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

王女が伴侶に選んだのはピエロ

意外な結末に唖然!

 活字に疲れると、絵本が読みたくなる。細かい字を目で追わなくていいし、絵があるから目の保養になって、気楽に読めるからだ。絵本は何も子供のためにだけあるのではないと言ったのは、名前は忘れてしまったが、有名な教育評論家だった。でも、大人が絵本を読むだなんて、大きな声では言えない雰囲気がある。昔もう立派な大人なのに、新刊書の棚にあった絵本に嵌り、子供の本のコーナーに通い詰めていたことがあった。そのときはもちろん、自分の子供のために本を探している母親のようなふりをしていた。まさか自分が自分のために絵本を探すだなんてことは、周りから何か咎められるような気がして予防線を張っていた。たぶん、大人は子供向けの絵本なんて読まないという既成観念にがんじがらめになっていたからだろう。

 そんな時、新聞で読んだ「大人こそ、絵本を読んで、汚れた魂を浄化をしよう」というある知識人の呼びかけに励まされた。絵本を読んで日々の疲れを癒したら、またすぐに活字の世界に戻っていく、という生活を繰り返している。今もまさにその時で、絵本の世界を堪能しているところだ。最近読んだ絵本は、『冬のコートをつくりに』という石井睦美さんと布川愛子さん著の作品で、主人公はうさぎのさきちゃんだ。さきちゃんがお母さんが昔着ていたコートを、自分用に作り直してもらう話になっている。さきちゃんはお母さんのコートを自分が受け継ぐことに喜びを感じている。母親のお古を着ることに何の疑問も不満も抱いていないところに、母親への愛情をひしひしと感じる。

 森の仕立て屋さんのミコさんは、腕がいいと評判で、センスもいい。ミコさんはさきちゃんがどんなコートがいいのか、と次々と質問していく。その質問がまたとてもいい。例えば、「さきちゃんにとって、冬はどんな色?」とか、「冬は何が楽しみ?」とか「コートを着て何がしたいの?」などなど、さきちゃんの反応を見ながら、頭の中でこれから作るコートのイメージを決めていく。そうやって出来上がったコートはまさにさきちゃんが望んだ理想の一着だった。絵本を見ると一目瞭然なのだが、なるほどと、大人の私が納得して、なんども見返してしまうほど可愛い。

 さきちゃんの絵本に味を占めた私は、また他の作品も読んでみたくなった。今度は同じシリーズの『春のワンピースをつくりに』を借りたが、ついでに別の作者の絵本も借りることにした。ついついそのタイトルに惹かれるままに『王国のない王女のおはなし』を読んでみることにした。なんだか面白そうと読み始めたが、最後に「こんなのありえない」と大人の見解が出てしまった。要するに、もしもこの絵本を子供が読んだとしたら、めでたしめでたしとなっただろう。何しろ、王国のない王女が荷物運びのバイトをし、ピエロが道化をして生計を立てると言うのだから、何とも荒唐無稽な話だ。

 そもそも主人公の「王国のない王女」はどこかの国の王女でも何でもなく、ただ名前がプリンセスなだけだった。王女の所有物はちいさな馬車とプリティという仔馬だけだ。それでも、王女は自分の王国を探して旅をつづけていた。生活費は馬車で小さな荷物を運んで稼ぐ。王女は自分の国もお金もないが、誰をも惹きつけずにはおかない美貌の持ち主だった。当然かの地の王様や王子に求婚されるのだが、嫌気がさして逃げ出してしまう。どうやら、王女が探す王国とは、国の所有者である王族との結婚ではないらしいと分かる。では、王女はいったい何を求めて、旅を続けているのだろうかという疑問が自然と浮かんでくる。

 それにしても、ただ優しいからとか、楽しいからというだけの理由で、ピエロを伴侶に選んでいいのだろうかと首をかしげずにはいられない。絵本では、その後二人には子供が生まれて家族もできた。仔馬のプリティにもまた家族ができた。そうやって、私の心配をよそに、二人は幸せに暮らしていく。ただ、一つ分かったことは、王女は自分が探していた王国をやっと見つけたのではないかということだ。

 

 

 

 

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