人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

紅茶が美味しい喫茶店

今週のお題「好きなお茶」

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▲建築家ビリャヌエバによるマドリード天文台NHKまいにちスペイン語テキストから。

いつもは通り過ぎるだけの店に、気晴らしに入ってみたら

 正直言って、私はほとんど紅茶を飲まないのです。紅茶よりコーヒーの方がどちらかというと好きで、でも嫌いなわけでもないのです。紅茶というと、思い浮かぶのはペットボトルの午後の紅茶で、ロイヤルミルクティー味のを飲んで「美味しい!」と感じたこともありました。でもすぐに飽きてしまって飲まなくなりました。その理由は美味しかったはずの紅茶の甘さが嫌になり、ただの色付き砂糖水としか感じられなくなったからです。それ以来、午後の紅茶はもう飲まなくなりました。後日、あの類の飲料水には多量の砂糖が含まれているのだと知らされて仰天したものです。

 当時私はドトールとかタリーズとかのコーヒーチェーンの店に足げく通っていました。ちょうどマイボトルを持ち歩くのが流行っていて、いつもサーモスのボトルにカフェラテを入れてもらって飲んでいました。でも、仕事が忙しくて体調が良くない時や、胃が痛いのが気になるときは、紅茶を頼むことにしていました。レモンもミルクも入れない、さっぱりとした味が欲しくなるのです。どちらかというと、飲み物は口実で日常生活の中で別空間を味わいたかっただけでした。だからいつでも座る席は決まっていて、窓際の外の様子が観察できる場所でした。

 家から駅までは歩いて約20分で、通り過ぎるだけの道なりに一軒の喫茶店がありました。その店は今では珍しい個人経営で、窓越しに中を覗うとお客さんがポツリ、ポツリで、たいして入っていないようでした。表に出してある看板を見ると「HIYODORIヒヨドリ」と店の名前が書いてあって鳥の絵も添えられていました。メニューを見るとコーヒー700円、紅茶800円、ランチは・・・・。想像した通り高いなあと思いながら、毎日のように通り過ぎるだけでした。

 そんなある日、ヒヨドリの店の脇道に人が大勢いるので仰天しました。何事か?とよく見てみるとベビーカーを引いたママたちが集まっていたのです。以前こんな風景をどこかで見たことがあるなあと無理やり頭を働かせてみたら、思いだしました。近所にある保健所が行う乳幼児のワクチン接種当日の光景でした。しかし、なぜこんなところにママたちがいるのかと不思議に思っていると、向かいの立派なビルの入口に「オーデション会場」の看板が見えました。何のオーデションだろう、と感の鈍い私はまだピンと来ません。でもガラスの扉に大きくエンジェルアカデミーの文字を発見して、ようやく事情が呑み込めました。乳幼児とオーディションとくれば、もう疑いの余地はありません、つまり赤ちゃんモデルなのです。

 さて、毎日のように店の前を通っていれば、誰だって一度くらいは入ってみたくなるのは人の常です。幸運にもその日はあっけなく訪れました。友だちが何やら臨時収入があったらしく、その日は行ったことがない店に行こうと言い出したのです。それで私はせっかくなのでヒヨドリに行こうと提案しました。店の中に入ると、店員さんが席に案内してくれて、お水を持ってきてくれました。田舎にあるようなレトロな喫茶店に入るのは久しぶりでした。紅茶800円の文字が気になって、思わず紅茶を注文してしまいました。紅茶の種類を聞かれたので、一番馴染みのあるダージリンと答えました。店員さんが運んできてくれたのは、芳醇な香りのする飲み物で、一口飲んでみたら、まさに紅茶という深い味わいでした。一口、一口飲むたびに感激し、「美味しい!」が止まらないのです。

 最後にカップの底に残った細かくて赤茶色い茶葉を眺めながら、「紅茶って本来こういうものだったのだなあ」とふと思ったのです。考えてみれば、今まで飲んできたチェーン店の紅茶はティーバッグで、単なる茶色いお湯だったのだとわかったのでした。まあ、私に紅茶の味がわかるかどうかは別にして、他人の財布で感動体験ができたのはラッキーだったとしか言えません。

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