人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

浮気されたような気分に

予期せぬ展開に心惹かれたが

 久しぶりに都心の繁華街に出かけたことは、ブログに既述したが、もう一つ予期せぬ出来事に遭遇した。それは、コロナ前によく通っていたドトールコーヒーショップでのことで、ふらっと入りやすいのが気に入っていた。決して広い店でないのに、不思議と居心地がいい店だった。店の奥には喫煙室が設けられ、こじんまりとした店だったが、常にお客で混んでいた。繁華街への抜け道にある立地のせいで、その時も満席かと思いきや、予想外に空いていた。それなら、店に入ってコーヒーでも飲んでいかなきゃと思い立ち、壁側の二人席に座った。いつもなら、注文の前に一応荷物を置いて、席取りをするのに、そんな必要がないことは一目でわかった。

 かぼちゃのタルトとアイスカフェラテを注文し、席に持っていて、食べ始めた。すると、隣の席にスレンダーな若い女性が現れ、テーブルの下に置いてあった荷物入れにバッグを入れようとしていた。その女性が椅子に座って待っていると、すぐに連れの若い男性が二人分の飲みものを乗せたトレーを持ってやってきた。なんのことはない、よくある若いカップルとだとばかり、その時は思った。すぐ隣の席なのに、男性の方の話し声だけ聞こえて、女性の声は全く聞こえてこない。ずうっと男性の方が喋りっぱなしで、しかも最初はいったい何の話かと、聞いている、いや、そうではなくて、聞こうとしなくても聞こえてしまうこちらとしては、不可解この上ない話の切り出し方だった。

 女性の方は終始冷静で、大きな声を上げるでもなく、相手を責めるでもなく穏やかだった。「ミナにはわからないと思うけど、おばさんはなんだか俺に浮気されたみたい、って言っているだ」と男性は話を切り出した。相手の女性はミナという名前で、二人は特別な関係、つまり恋愛関係にあるらしい。それは男性の「俺がミナを好きになっちゃったのもいけないんだけどさあ」という発言で容易に想像できる。では、男性が言うおばさんとはいったい誰のこと?という疑問が私の頭を駆け巡った。

 「考えてみると、俺は一番最初に店で出会ったのはおばさんで、ミナはその後からじゃない?」

 「おばさんからすれば、俺の本命はおばさんで、ミナはただの浮気相手ということになるんだ」

 「おばさんはなんだか俺に浮気されたみたいで、気分が悪いって言ってるんだよ。納得いかないって言ってるんだよ」

 「俺はおばさんがそう思うのも無理はないと思うんだ。店で俺を指名してくれたし、そういう意味でおばさんは俺の本命だった。ミナ、誤解しないでくれよ、別に俺とおばさんは付き合っていたわけじゃない。そうなんだけど、やっぱりおばさんにとっては自分は俺にとっての本命なんだ」

 以上のように、ざあっと男性の言葉を思い出して並べてみると、感が鈍い私でもだいたい想像がついた。つまり、”おばさん”というのは店に来て男性を指名してくれるお客さんのことなのだ。男性の「おばさん」という言葉からは嫌悪感は一切漂ってはこないし、むしろ、おばさんの気持ちは十分すぎるほどわかるという思いがこちらにまで伝わってきた。その点において、男性はおばさんの存在を大切に思っていることは確かだ。

 だが、今は目の前にいる彼女、ミナさんに、おばさんとの関係を説明し、わかってもらわなければならない。なぜなら、男性はミナさんを好きになってしまい、これからも付き合いたいと思っているから。要するに,私が偶然遭遇した状況は、男性ができる限り言葉を尽くして、ミナさんを宥めようとしている場面だった。幸い、ミナさんは感情的にもならず、そのせいか一切彼女の言葉は聞き取れなかった。

 それはさておき、男性はこれからおばさんとはどうするつもりなのだろう。果たして、いかにしておばさんの浮気されてしまったと言う不快な気分は払拭されるのだろうか。小耳にはさんだけの話なのに、ドラマの展開みたいに気になった。だが、もう少し聞きたいと言う気まぐれな欲望を断ち切って、私は店を出た。この話はこれでお終い。

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