人生は旅

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羊飼いの暮らし  

▲2015年に世界的ベストセラーになった『羊飼いの暮らし』

偶然見つけたこの本は、読むと心が落ち着く

 この本との出会いは全くの偶然だった。近所にあるたいして使えない本屋の店先の新刊の棚に『羊飼いの想い、イギリス湖水地方のこれまでとこれから』と言うタイトルの本があった。何のことはない、これだけなら何も感じないのだが、”2015年に世界的にベストセラーになった『羊飼いの暮らし』の著者による続編”と言うポップが付いていたのが気になった。気になっただけで、そんなことはすぐに忘れてしまえばよかったのだが、なぜか覚えていて、家に帰って図書館のサイトで検索をしてみた。そしたらちゃんとその本はあって、そうなったら興味津々で読みたくてたまらなくなった。最初はなぜ羊飼いの話が世界的ベストセラーになるかがわからなくて、半信半疑だったが、要するに世界の人々を魅了するほど面白いと言うことに他ならないと予想した。よくよく考えてみれば、著者のジェイムズ・リーバンクスさんは羊飼いなのに、なんとあのオックスフォード大卒だった。

 彼は小さい頃から、祖父や父の羊飼いとしての仕事をまじかで見て、自分も彼等のようになりたいと憧れていた。なので、学校の勉強などは二の次だったのに、なぜか学校の成績は優秀だった。生まれつき頭がよくて、本を読んだらそれをすべて記憶してしまうようなタイプなのだ。彼は最初大学なんて行く気などなかったが、大学というものがどの程度のところなのか知りたいのと、自分を試すつもりで行こうと決心した。

 彼が羊飼いをして暮らしをしているのは、有名なコッツウォルズと呼ばれる地方で、その地域にはあのオックスフォードも含まれていた。コッツウォルズについては全く関心がない私だったが、地球の歩き方のロンドンのガイドブックを見てそれがどこにあるかを確認できた。意外にもロンドンから近く、電車に1,2時間も乗れば行けてしまうことに驚きを隠せない。ロンドンから日帰りで遊びに行くことも十分可能なのだ。そんな旅行気分の私とは裏腹に、彼に言わせると、世間で人気観光地と言われているコッツウォルズは本来のあるべき姿とは一線を画していると言う。それは彼が見たことがないような作り上げられた別の場所に過ぎないのだ。彼が羊の世話をしていると、観光客が写真を取ろうと近づいてくるのに遭遇することもあった。

 元々、コッツウォルズは現在ほど世の中にその存在を知られてはいなかったが、それを世に知らしめたのはアルフレッド・ウェインライトという人物だった。彼は湖水地方における山歩きのガイドブックを多数著わして、コッツウォルズ地方を一躍有名にした。それで現在では世界中から観光客が押し寄せる大人気観光地となったのだ。だが、著者にとってはどうでもいいことで、先祖代々受け継がれいる羊飼いとしての暮らしを黙々と続けている。毎年開かれる雌羊の品評会で賞を取ることを目標とし、朝早くから羊の世話に明け暮れる日々にも関わらず、それだけでは生活が成りたないという厳しい現実もある。事実、地元のファーマーたちは皆B&Bを経営したり、他の副業を持っている人たちが多い。

 残念なことに、時代の流れなのか、ウールは現在ではポリエステルのような合成繊維にかなわなくなった。羊の毛は今では二束三文の値打ちしかなくなった。なので、羊の毛を刈る作業は、羊毛を取って、それを売り物にするためではなく、羊の身体の清潔さと健康を保つために過ぎない。となると、著者が営んでいる牧畜業の収入源は一体何なのだろうと自然と疑問が浮かぶ。著者によると、この地域における牧畜での最終的な目的は二つあると言う。一つは他の農場に売るための種羊を育てることであり、もう一つは5月から10月のあいだに山の肥沃な草原で育った雄牛を食肉用として売ること。要するに、羊飼いのすべての収入はこの二つの方法によってもたらされるのだ。

 この本を読み進めるうちに、著者の住む地域が10月から翌年の5月ごろまでは悪天候が常で、冬などは吹雪の中を、羊の群れを探してエサやりに行くとの記述を発見し、衝撃を受けた。この地域に暮らす羊はステレオタイプの弱い羊などではない、悪天候にも、冬の寒さにも耐えうる頑丈な品種なのだという。実を言うと、この本「羊飼いの暮らし」を私はかれこれ3カ月程借りている。その理由はこの本が380ページにも及ぶ大長編であり、日々目の前のことに気を取られ、なかなか読了できなかったからだ。本当はとてもいい本なのに、誰も予約していないのをこれ幸いに、ズルズルと延長し、また借りると言う行為を繰り返して今に至る。だが、いまブログを書くのをきっかけに一区切りをつけて、返却しようと思う。

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