人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ドラマ「silent」は新鮮な静寂の世界

ドラマのテーマは未知の世界、でも新鮮

 私がこのドラマを最後まで見た理由は、脚本が将来有望な新人に贈られる賞を受賞したことだった。しかもその書き手は20歳足らずの人だと言うのだ。だから何か今までにない発想というか、試みがあるのではないか、と心の片隅でそんな新鮮な期待を抱いていた。ドラマの内容は聾者と聴者との恋愛だということで、そんな話なら過去のドラマでも少なからずあった。一番印象に残っているのは、漫画でも話題になった『君の手が囁いている』で、放送当時は一大センセーションを巻き起こしたドラマだ。聴者の夫が妻のミエコに「僕は他の人にはないミエちゃんだけが持っている強さに惹かれたんだよ」というシーンがあったと思うのだが。なにぶん遠い昔のことだから、うろ覚えで、強さなのか、優しさなのかは不明なのだが、そんなセリフがあったことは確かだ。いずれにせよ、聴者である夫は聾者の妻に心惹かれて結婚したことは間違いない。なので聴者と聾者の恋愛は別に珍しいことでもなんでもないと思っていた。

 だがこの「silent」の場合は状況が全く違う。ドラマのテーマが聴者と中途失聴者の恋愛であることもそうだが、8年もの歳月を経て再会するというシチュエーションもそうだ。ヒロインの青葉紬にとって中途失聴者の佐倉想は高校生であの頃のままの存在だ。「佐倉君は私の中では何も変わっていないよ」と想に告げるのだが、実際はそんな訳はないのだ。遺伝性の病気で突然音のない世界に追いやられた想の悲しみや苦しさは他人に理解できるわけもない。8年経っても、想はまだ自分の置かれている状況を肯定できていなかった。今も暗闇の世界に住んでいて、周りと深くは関わろうとはしなかった。    

 果たしてそんな人と恋愛できるものなのだろうか、それが私が最初に感じた疑問だった。想も紬に対する気持ちは変わらないらしく、会いたいという気持ちは同じだった。紬は「ただ、一緒に居たいだけだから」との想いで突き進み、想も紬の気持ちを受け入れてたびたび二人は会うようになる。次に抱いた違和感は、紬があまりにも寛容で真っすぐな性格の女性だということだ。どうしてこんなにも相手に対して「そのままでいいよ」と言えるのかがわからなかった。当時絶望のどん底にいた想に手話を教えてくれて、8年もの間支えてくれた奈々さんにも感謝はするが、嫉妬はしなかった。奈々さんは想に片思いをしていたが、「どうせ私は彼にとってはただの友人だから」と友人に愚痴っていた。

 ヒロインの紬の急がない、焦らない、今どき稀有な性格なしにはドラマ「silent」は成立しない。想と会話するために、自分が言いたいことを相手に伝えるために手話教室の門をたたく。一見二人は付き合い始めたかのように見えたが、紬は「まだ付き合っているわけではないから」と本気とも冗談ともつかないことを言う。その言葉の意味が分かるような気がした。二人がファミレスで会っている時も、紬のアパートで食事をしている時も「これって恋愛!?」と感じることが多かったからだ。

 ドラマが終わって、ネットに「『silent』はキスのないラブストーリー」と出ていたのには驚いた。なぜなら、二人はまだキスをするような仲ではないと思うからだ。まだキスをする段階ではないような、その前のプレ恋愛的な雰囲気が漂っているからだ。好きという気持ちに濃度などあるわけもないが、まだお互いにわかりあっていないというか、未知の部分が多すぎる。それになによりこれから先乗り越えなければならない問題が山積している。例えば、過去において二人の趣味は音楽鑑賞だったが、想は音を聞くことはできなくなった。そのことで遅かれ早かれ何らかの諍いが生まれないだろうか。いや、そんな予感がする。

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