人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ホテルに帰れない

今週のお題「人生最大のピンチ」

閉じ込められて、ピンチ!?と思ったら

 世間では、台湾は旅行先としては大変人気があるらしいが、私の経験から言うと違っている。こんなことを言っても誰も信じてはくれないが、事実、周りの親戚連中や友達も、「なんて人なの!?」という訝し気な目で私を見た。もっとも、私と一緒に行った叔母と義姉のミチコさんも周りから全く同様な反応をされたというから、諦めるしかなさそうだ。なぜそう感じたのか、きっちり釈明したいところだが、それは無理な話だ。テレビの旅番組やマスコミが作り上げたイメージが強烈過ぎて、そう簡単には覆せないからだ。

 台湾に対して負のイメージを抱く理由のひとつは、ある事件が起きたからだ。その事件とはある場所に閉じ込められて、絶体絶命、もはや出られない!どうしよう!?という状況に陥ったことだ。万事休すとなったとき、幸いにもすぐに救世主が現れたことで、地獄で仏に出会った心境だった。その災難の根本的な原因は泊まったホテルが民泊だったことだ。民泊とはマンションなどの所有者が旅行客に部屋を貸し出すのだが、これがなかなかわかりにくい場所にあって、捜し出すのに苦労した。要するに、住所がわかっているのにも関わらず、その番地の範囲が広すぎて、どのあたりにあるのか、どう行けばいいのか具体的に見当もつかなかった。

 異邦人の自分たちでは到底無理なので、現地の人に助けを求めたが、それでもすぐには見つからなかった。幸か不幸か、予約した民泊のホテル、つまりマンションの部屋は台北の主要駅の駅前にあって、しかも商業ビルと隣接していた。どうやら地下街にあるショッピングセンターとも通じているようで、その辺の事情を熟知していれば、実に便利だが、新参者にとっては悩ましい限りだった。

 ホテルがあるビルに行くのに、道路を横断できず、地下街を通っていかなければならないのも私たちを十分に混乱させた。なんとか自力で探そうとしたが、無理そうなので、ブティックの店員さんに助けを求めた。ホテルの予約確認書を見せたら、親切にも電話をかけて聞いてくれた。しばらくすると、ホテルの係員が迎えに来てくれたが、その行き方がまたそう簡単ではないのに仰天した。何とその人は地下街のコインロッカーの脇をすり抜けて狭い通路をどんどん歩いて行った。こんなところに通路があるなんて!と驚きを隠せなかった。まるで隠し扉のようで、普通の人はなかなか気づかけない。まあ、考えてみると、だからこそ私たちは困り果てたのだが。しばらくすると、小さな玄関が見えてきて、そこがどうやらマンションの入口のようだった。中に入ると、テーブルがあって制服を着た男性がふたり座っていた。後になって、彼らはホテルの従業員ではなくて、警備員なのだとわかった。彼らの前を通り過ぎると草花が美しく咲ている庭園に出て、そこからエレベーターに乗って8階の部屋まで行った。

 係員の案内で、やっとその日のうちにホテルの部屋にたどり着けたのは良かったが、問題は外から帰って来るときだった。部屋から警備員のいる階まで行って外に出て行くのはたやすくできた。だが、実際は一番肝心なあのコインロッカーがどこにあるのか探すのに苦労した。商業ビルの入口にあるのはわかっているのだが、残念なことに入口がいくつもあってどれがそうなのか分からない。もちろん念のためにデジカメで撮影もしているのだが、迷宮に入り込んでしまったかのように錯覚した。ああ、そうだったのかと納得したのは宿泊の最後の夜だった。

 次の日、私は買い物をしようと部屋を出て、街へ出かけた。信じられないかもしれないが、もしかしたら帰って来れないかもという不安を抱えていた。だから叔母に一緒に来てもらって、80歳にもなる叔母を散々連れまわした。今から考えると大変申し訳ないが、その時は外からホテルに帰る方法を見つけようと必死だった。だが、やはりホテルに帰るためのロッカーが見つからず、というより隙間にある通路を見つけられず、路頭に迷った。笑い話にもならないが、”ホテルに帰りたくても帰れない状態”になった。海外旅行において、人生で初めてのどうにもならない状況を経験した。困った、どうしようかと思ったその時、私の目に飛び込んできたのは、壁にカードをかざして、ピッとやって中に入る人々の姿だった。スケルトンの扉に書いてあるのはホテルの名前で、どうやら私たちと同様のタイプのホテルらしい。

 何を思ったか、私は叔母に「とりあえず、ここに入ろう」と言うと、叔母は信じられないという顔をした。だがお構いなしで、目の前の人達の後に続いて中に入った。当然彼らはどんどん進んで行って、やがて見えなくなった。その時初めて、これはまずいと思った私は外に出ようとした。だがドアはビクともしない。たいていは外からは入れなくても中からは出入り自由だと思ったが、ここではカードがないとダメらしい。もうホテルには帰れないと覚悟した時、中年の男性が現れて、何も言わずに私たちについてくれるように手招きした。彼に誘導されて行ってみると、何とそこは見たことがあるマンションの小さな玄関だった。一見、迷路のように見えても、ちゃんとどこかで繋がっていた。彼は私たちが迷子になったことを十分承知していたのだ。

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