人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

台北の民泊でゾッとした話

今週のお題「ゾッとした話」

閉じ込められ?一瞬、日本に帰れないと思ったが

 もうずうっと前の事のように思えるが、コロナ前に「民泊」というものが流行った。民泊というのは、ホテルとかペンションとかとは違って、普通の人がマンションとかアパートを貸し出すことで、料金も安く済むと噂には聞いていた。その時は全く他人事で、まさか自分が民泊を利用するだなんてことは夢にも思わなかった。そして、民泊というものが抱える問題点についても考えが及ばなかった。自ら困難な状況を体験したからこそ、「民泊は簡単に考えていたら大変」で、「想像以上に手ごわい」と断言することができる。

 そもそも、なぜ民泊を利用したのかと言うと、その発端は姉が「台湾に行きたいから、お願い」と私に頼んで来たからだった。姉と義姉のミチコさんと私の3人で行く台北旅行を計画し、旅行日程を決めて飛行機を予約した。さて次は泊まるホテルを決めようとしたのだが、当然のことだが、3人で泊まれる部屋はなかなか見つからなかった。そんなとき、宿泊予約サイトで見つけたのは、あるマンションの一室で、まあ、さしずめ、高級マンションともいうべき室内の写真が載っていた。広いリビングにベッドルームが二つあって、しかも料金はリーズナブルで願ってもない好条件の部屋だった。すぐに私の心は舞い上がり、「ここ泊まれたら、どんなにいいだろう」との思いでいっぱいになった。「絶対にここしかない」との思い込みでがんじがらめになり、後でえらい目に遭うことなど全く予想できなかった。なんともおめでたい話だ。

 そのマンションは台北の中央駅の駅ビルに隣接していたので、とても分かりやすい場所にあると思い込んでいた。だが、現地に行って見て初めて分かったのだが、そのマンションに行くための入口を駅ビルの従業員でさえも知らなかった。こんな青天の霹靂としか思えない事実があるとは!これには呆然自失した。今晩もしかしたら、ベッドで寝られないかもしれない、などというぞっとする場面が頭にチラッと浮かんだ。迷える子羊のような私たちに同情したのか、親切なブテックの店員さんが、直接予約確認書に載っていた電話番号にかけてくれた。それでもなかなか電話は終わらず、見も知らぬ私たちのために骨折ってくれて嫌なそぶりも見せず、延々と付き合ってくれた店員さんには感謝しかない。結局、民泊の会社のスタッフが、迎えに来てくれて、私たちは無事マンションにたどり着いた。

 だが、それで安心というわけにはいかなかった。なぜなら、部屋から外に出て、駅ビルから出ることはできるが、反対に帰って来る自信がなかったからだ。何を言っているのだ、そんなバカなことがあるかと、おっしゃりたいのは分かる。だが本当に駅ビルの外に出たら、マンションに行く通路が探せなかったのだから、どうしようもない。最初スタッフにマンションまで連れてきて貰った時、たしか駅ビルの入口にあるコインロッカーの後ろを通った記憶があった。もちろんその通路は狭くて、普通の人には見えなくて、まさかそんなところに通路があるなんて誰も思わない。いわば、秘密の通路だった。今にして思えば、見事な防犯対策で、あれでは不審者が忍び込む余地はない。いや、そこに俄かに泊まることになった旅行者さえも翻弄した。

 思えば、これまでいろんな国のホテルに泊まり、唯一探すのに骨が折れるというホステルにも泊まったが、民泊ほど悩ましい思いをしたことはなかった。私は考えが甘かったのだと痛感する。だいたいが、駅ビルというのは誰でも利用する場所なのだから、当然危険が付き纏う。マンションの入口は住民だけが知ってさえいればいいのであって、外部の人にはわかりにくくて当たり前なのだ。もう少し深く考えていたなら、事前に問い合わせることもできただろうに。

 そんな浅薄な私だから、姉と一緒に外に出たとき、当然のごとくある事件に遭遇した。駅構内の売店で食料を調達し、マンションに帰ろうとしたら、予想通り通路がわからなくなった。コインロッカーのある入口を探してみるが、あろうことか、何処にでも似たようなコインロッカーが置いてあって往生した。こんなことなら、ヘンデルとグレーテルの童話のように、コインロッカーに傍目にはわからないように目印でも付けておけばよかったのだ。だが、”後悔先に立たず”だった。追い込まれた私は、ある入口から何人もの人が中に入っていくのを見て、自分たちも中に入って見ようと姉に提案した。姉はもちろん惑っていたが、仕方なく私に続いて、中に入った。その時の私は中からは自由に出入りできると思い込んでいた。だが、ドアは開かなかった。もはや絶対絶命の大ピンチ、もしかしたら、ここに閉じ込められて、日本に帰れないかもしれないとさえ思った。だが、いつの世にも救世主は現れると決まっているらしく、管理人のおじさんが苦笑いしながら、すぐ側のドアを開けてくれた。すると、目に飛び込んできたのは、あのコインロッカーだった。やはり繋がっていたのだった。

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