人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

パリに別れを告げて、TGVに乗る

パン屋で買った食料はどれも失敗だった

 前日にロクに下見もしなかったので、翌朝は早めにホテルをチェックアウトした。モンバルナス駅に行く道すがら、前日の夕方にペンネのデリカ(4.5ユーロ)を買ったパン屋の前を通りかかった。まだ7時だと言うのに、もう店を開けていた。次々とお客さんがやって来る。私も何か、TGVの車内で食べる物を調達しようかと思い、店に立ち寄った。ショーケースの中にあるホッカッチャとキッシュが気になった。普通ならクロワッサンやショコラを買うところだが、私はもう飽きていたので、別の味が欲しかった。それで、いくらぐらいするのかと値段を確かめてみると、なんと6.5ユーロ(千円以上)もする。ありえないことだと穴のあくほどじっと見てみるが、やはり間違いない。

 だが、食べたいと言う欲望は抑えきれない。ホッカッチャとキッシュ、それもキッシュ・ロレーヌではなく、表面に緑の葉っぱがやたらとのっている方を買ってしまった。ホッカッチャは表面にオリーブや玉ねぎ、ハムなどがのっていて、見るからに美味しそうに見えた。この時の私はウキウキしていたので、調子に乗って円いプラスチックに入ったヨーグルトのようなものも買ってしまった。値段は覚えていないがこれもなかなかの値段だった。たかがパン屋でこんな高い買い物ができるのも、私が観光客の立場だからだ。そう言えば、気になるのは、私が「キッシュ」と注文すると、店員さんたちがその名前を連呼し、クスクス笑っていた。一体全体、あれはどうしてなのか、理解に苦しむ。いずれにせよ、買ったものを手提げ袋に入れてもらって、ルンルンで店を後にした。

 モンパルナス駅でTGVの列車を待っている間、駅の構内を散策してみた。いつものことだが、TGVは出発間際にならないと、乗るべきホームもわからないし、また改札を通ることもできない。なので、皆、頭上にあるパネルをひたすら見つめてじっと待っている。退屈なので、たいして買う気もないのにうろうろしていると、5年前にはなかったような店がたくさんあることに気付いた。コロナ禍もあって、パリは5年ぶりだった。以前はたしか、バゲットに野菜やハムを挟んだだけの見た目はいいが、食べてみるとがっかりするような代物しかなかったが、今回は「メゾン・カイザー」という人気店もあって賑わっていた。以前は駅近くに店を構えていて、その時は一口大のマドレーヌを何個か買った覚えがある。一個が1.5ユーロで、たいして期待しなかったのに、食べてみたらその美味しさに仰天したのだ。表面はカリカリしているのに、食べてみると、中はふわっとして柔らかい。そのギャップがまた嬉しかった。それにバターのコクが何とも言えない。

 ショーケースの上にある棚に袋に入ったマドレーヌを見つけたときは、懐かしさがどっと押し寄せて来た。何としても買わなきゃ。あまり売れていないようだが、私には必要だった。それで、自分の順番が来た時に、コーヒーとマドレーヌを注文するのだが、店の人には私の「マドレーヌ」の発音は聞き取れないらしい。隣に立っている人が、「マドレーヌよ」と言ってくれたので、本当に助かった。

 パン屋の袋とメゾン・カイザーのマドレーヌを携えて、意気揚々とTGVに乗り込んだ。出発時間は午前10時で、それまで何も食べていなかった私は空腹だった。駅構内にある店で、何か食べればよかったのだが、大勢の人で混んでいて、空席が見つからなかった。TGVの席は一等席で、しかも一人席でとても快適だった。さて、座席に座って、落ち着いた私は、早速パン屋の袋を取り出して、ホッカッチャにかぶりついた。だが、どうしたことか、あまり美味しくない。そんなはずはないだろうと、二口、三口と食べてはみるが、やはり変わらない。次にキッシュを試してみるが、生地の中に無数に入っている葉っぱのようなものが邪魔で食べられない。まさにお茶の葉が入っているようなもので、これをまともに食べられる人がいるのだろうかと本気で思った。ついでに買った白いヨーグルトのようなものも試してみたが、酸っぱすぎて食べられなかった。

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