人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

千早茜さんの新刊『赤い月の香り』

今週のお題「読みたい本」

中日新聞に載っていた千早茜さんの直木賞受賞エッセー。

 今私が読みたい本、正確に言えば、ひと月前の今日、読みたいと思った本は、千早茜さんの新刊『赤い月の香り』だった。その日は図書館のサイトで、本の予約をした。新刊だと言うことで、貸出件数が4冊なのに対して予約数がまだ22だったから、一瞬希望の虹が見えた気がしたからだ。思えば、あの頃、千早さんが直木賞を受賞した『しろがねの葉』を遅ればせながら、図書館で、自分の懐を痛めることなく読もうとなどと良からぬことを考えていた。千早さんの名前は全く知らなくて、その人がどんな作風なのか、また作品の内容が自分が共感できるものなのか、あるいは抵抗なく、飽きることなく読み進められるものなのかもわからなかった。とにかく、不安だらけだった。昨今は本の値段が高くなっているが、そんなこととは関係なく、本屋で手に取ることもなく、ただ、遠目に様子を窺っていた。

 なぜそんなにも、千早さんのことが気になったのかと言うと、折も折、朝日新聞の夕刊に『とりあえず、茶を』というエッセイが載るようになった。どれどれと、面白半分に読んでみたら、意外に内容が面白かった。というよりそこに書かれていた千早さんの趣味に仰天した。なんと、ストリップ鑑賞が趣味のひとつだと言うのだ。直木賞受賞作『しろがねの葉』の主人公がウメという名前のせいで、『梅干しや梅味のものをちょくちょくいただく』という話から、どういうわけか趣味の話になった。千早さんは梅が大好きだと言う。事の始まりは編集者が『それ、いいですね』との感想を漏らしたことで、何が?と問うたら、『好きな食べ物を主人公の名前にすると、好物を貰えるってことですよ』と宣ったのだ。

 エッセイを読みながら、こちらは、なるほど、作家にはこんなうれしいご褒美がついてまわるのかと、目から鱗だった。それで思い出したのが、作家のくどうれいんさんのことだった。『私を空腹にさせないほうがいい』というエッセイを出したら、それからというもの美味しそうなものばかり自宅に届くようになったと言うのだ。別に本のタイトルに脅迫しているような意図などないのにもかかわらず、あちらこちらで皆気を使ってくれることに驚いていた。

 それはさておき、千早さんは、「好きな食べ物を名前に使うと好物を貰える」という特典が付いてくるという現象に、ふと何か,つまり「あれ」と同じことかと思い至ったのだ。つまり、自分の趣味であるストリップ鑑賞のことで、踊り子さんの芸名が「メロン」とか、「りんご」とか、誰でも知っている名前だと覚えてもらいやすいし、またお客さんからその芸名そのままの果物の差し入れが届くらしい。なので、いくらとかマンゴーが好物なら、迷わずその名前にすればいいのだ。もっとも、踊り子さんには自分の好物を名前にすれば、容易にお気に入りの物が手に入ると言う戦略はなかったようで、「私もイクラやマンゴーにすればよかった」と歎いている人もいるらしい。この話を読んでいるこちらは、「へえ~、そういうことになるの」かと興味津々で、芸名が及ぼす影響力に驚かされる。

 変な話だが、千早さんの作品を読む前に千早さんがどんな人なのかを少し垣間見た気がした。正直言って、本当に作品が読みたければ、こんなことをうだうだ書いているのではなく、もうとっくに著作を買って読んでいるはずだ。明らかに、千早さんの本は私にとって優先順位が2番手、3番手の本であり、機会があれば、相性が合えば、読み進めることができる本だった。だから、あわよくば、無料で、うまいことやりたいと考えてしまうのだろう。『しろがねの葉』は人気が沸騰しすぎて、予約数が120を超えていたから、予約しようなどとは露ほどにも思わなかった。それで、新刊なら何とか私にもチャンスが巡って来ると確信したので、予約をしたわけなのだ。とは言っても先は長い。現在一カ月たったが予約数はたった2件しか減っていない。私の前には20人もの人が今か今か?と順番を待っていて、最後のひとりは自分だ。

 こうなると、待つと言うより、もはや予約したことすら忘れるレベルだが、必ず順番は来る。ある日、突然予期せぬギフトが届くような感覚で、図書館から「取り置き完了メール」が届くのだろう。その時の自分はいったいどんな反応をするのだろうか。いずれにせよ、その際は”食わず嫌い”の発想は捨てて、まずは最初のページを捲って見ようと思っている。まずは、最初の一歩を踏み出さないと・・・。

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