人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

きみへのおくりもの

見ているだけで、幻想的な世界に没入

 先日の土曜日に、図書館に予約していた本を取りに行った。家から最寄りの図書館は歩いて20分ほどで、正直言ってわざわざ行くのが面倒臭い。だが、ただで本が読み放題の恩恵に預かれるのならこれ幸いと、視点を180度変えて悦に入る。それに、これもウォーキングの足しになると思えば余計に説得力がある。何のかんの言っても、気持ちが上向くと、自然と身体も動くから不思議だ。嫌々歯医者に行くのとはわけが違う。いつものように、大通りを歩いていたら、向こう側にある県立高校の前あたりに人だかりができているのを発見した。この県立高校は昔ベストセラーの著作で有名になった作家の出身校で、しかも県でも指折りの進学校だった。それは別にいいのだが、いつもは時折学生が出入りするだけで、特に目を留めることもなかった。

 ところが、その日はなんだか様子が違った。男女とも着物で、男性までもが羽織袴姿で、何やら皆で嬉しそうに談笑している。まず目についたのは、女性の袴姿で、まるで大学生かなんかの卒業式のようだと思ったが、校門から出てくるのは間違いなく高校生だった。まるで何かの余興か何かのようだとふと思ったが、ちょっと待ってともうひとりの自分が言う、これはひょっとしたら、高校の卒業式なのではないだろうか。それにしても、どうして男子までもが着物なのだろうか。しかも芸能人がかくし芸大会で着るような、色とりどりの羽織と袴姿で、私の目には悪趣味としか映らなかった。いやはや、全くもって隔世の感がある。

 そう言えば、最近、新聞で話題になったのは「小学生の卒業式での袴での出席をどうする?」という記事だった。どうやら、私の世代にありがちな、卒業式は特に派手にしなくていいのではというステレオタイプな考え方は絶滅危惧種のようだ。卒業式だからこそ、ほとんどの女子は袴姿に憧れるのだという。衣装から髪型まで、親にしてみれば費用が大変だ。皆がやるから私もやりたいと言われれば、反対などできるはずもない。

 閑話休題。冒頭の図書館の話だが、何を借りに行ったのかと言うと、またもや絵本で、感激して嵌ってしまった刀根里衣さんの絵本だ。この『きみへのおくりもの』はバレンタインデーをテーマに書かれた絵本で、シロとクロという二匹の猫の心温まる物語に心が洗われる思いがする。クロが大好きなシロにプレゼントしたかったのは湖の水面に光る眩しい”キラキラ”だった。夜の幻想的な世界でまるで宝石のようにきらめく”キラキラ”をクロはなんとか手に入れようと奮闘する。最初は小さな手で掬おうとするが、葉っぱしか掬えない。シャベルでやっても、バケツでやっても、やっぱりだめで、掬ったと思う側から、一瞬にして”きらきら”は消えてしまうのだ。

 業を煮やしたクロは湖の中に飛び込んで、探そうとするのだが、そこは暗闇の世界で何も見つからない。疲れて岸に戻ると、月の魔法でできていた”キラキラ”はもう姿を消していて、湖は陰っていた。でも、しょんぼりしているクロのそばで、シロは笑顔だった。「シロは宝物のありかを知っていた。それはふたりの心のなか」という記述に心が温かくなる。ブランド物のバッグなどなくても、究極の幸せは手を伸ばせば、いつでも手に入るということを教えてくれている。こんなことを言われても、その時だけはじ~んとなるが、すぐに忘れ、もっと、もっとと欲張るのが人間なのだけれど。それでも、この『きみへのおくりもの』の世界にどっぷりと浸かっている間だけは、こんな幸せ、あったらいいのになあ、と憧れてしまう。何事にも熱しやすく冷めやすい、中途半端な性格の私を、この絵本は、紺碧で、群青の世界に埋没させてくれる。

 よく見ると、湖面に浮かぶ葉っぱも、貝殻も、そして魚さえもハートに見えてくるから不思議だ。闇夜に光る無数の星々が、幻想的な世界を演出している。しばし、別空間に現実逃避させてくれて、日常のはざまでのいい気分転換になる。

 

 

 

 

 

 

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