人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ビデオデッキの復活

掃除機で埃を取るだけで、ビデオが見れた

 先日、久しぶりにビデオデッキでビデオを見ようとした。最後に見たのはいつだったか、思い出せないくらい長い間、使っていなかった。何でも使わないとその機能が衰えるのは人間も機械も同じだ。コロナ禍の最中に歩いて30分ほどのところにあるレンタルビデオ店TSUTAYAが閉店してしまった。閉店のお知らせを見て呆然とした。その頃の自分はパソコンで動画サービスのドラマを見て、レンタルビデオのことなど眼中になかったくせにである。どうでもいいかと思っていたものが、突然無くなるとたちまち慌てふためくのはお調子者のたどる運命にほかならない。まあ、いいかと気持ちを切り替えたら、今度は頼みの綱の無料動画サービスのGAOが終了してしまった。万事休すだ。

 嘆いてみてもどうしようもない。娯楽に飢えた私が向かった矛先は、図書館のサイトだった。あんなものあっても、どうせ使えない代物だと馬鹿にしていた図書館がたちまち宝箱のように見えてきた。サイトを閲覧してみると、何と芥川賞直木賞受賞作のみならず、新刊書だってゴロゴロあるという事実に目を見張った。タダで、2週間も借りられるし、気に入らなければすぐに返せばいい。基本的にどんな本でも、借り放題で読み放題だなんて、自分のためだけに図書館はあるのだと錯覚してしまいそうになる。

 図書館通いが習慣になったある日、いつもは立寄らない新刊書のコーナーに行ってみた。すると、そこにはビデオもあって、『アクトレス』というフランス映画を見つけて、借りることにした。主演はジュリエット・ビノッシュで、ベテラン俳優が、20年前に主演した映画の脇役のオファーを受けて思い悩む話だ。家に帰ってきて、早速ビデオデッキで見ようとするが、うんともすんとも言わなくて、映像も写らない。それでも、何度かやってみたら、映ったので、ほっと胸を撫でおろした。映画の舞台はスイスのサンモリッツチューリッヒとアルプスに囲まれた、風光明媚な場所で、ストーリーだけでなく、背景の素晴らしさも十分楽しめる。その日は途中まで見て終わり。

 さて、次の日も見ようとCDをビデオデッキのトレーに乗せて入れてみるが、いっこうに映像が出てこない。前日と同様に何度かやってみるが全くダメ。「映像の読み取りに失敗しました」と画面に表示まで出た。思えば、何年も放置しておいたので、その間に壊れてしまったのかもしれない。もはやこれまでと観念したその時、以前会社の同僚が言っていたことを思い出した。「ビデオなんかの、ああいう機器はたいてい埃でやられるんだよね」。彼が言いたいのは、電子機器の故障は埃が原因であることが多いということだった。彼の言葉を鵜呑みにしたわけでもなく、ふ~んと聞き流していただけだった。だが、先日は映らないビデオデッキを前にして、私の頭の中になぜか彼の言葉がフワリと浮かんできた。早速掃除機を持ってきて、ビデオデッキの埃をとることにした。チラッと見ただけでもすごい埃だ。特にいくつか穴の開いた側面の部分は穴にこれでもかと埃が詰まっている。掃除機でできるだけ埃を吸おうと躍起になる。

 ビデオデッキは見違えるように綺麗になったが、はたして肝心の機能の方はどうだろうか。本当にこんな簡単な事で、機械というものは蘇るものなのだろうかと半信半疑だった。ダメもとで、CDを入れてみる。たいして期待もしなかったが、すぐに画面に映像が出てきた。なんと見事にビデオデッキは復活していた。これはまぐれなのか、それとも必然なのかはわからないが、とにかくビデオは見られることは確かだった。『アクトレス』のことだが、ベテラン女優は戸惑いながらも、一旦は主役の相手役というオファを受けることにする。その後すぐに後悔して、断ろうとするが後の祭りだった。高額の違約金が発生するので、不可能だとプロデューサーにくぎを刺される。

 ベテラン女優とマネージャーがアルプスの山々に抱かれた美しい高原を散歩しながら、セリフの稽古をする。時には湖で泳いだりして、まるでバカンスのごとく楽しんでいる。見ているこちらも、旅行気分に浸れるのだが、何たることか、リラックスしすぎて、眠くなってしまった。

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