人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

あなたはもしかして学芸員?

朝日新聞夕刊に載っていた『アートの伴奏者』の記事

それとも、パートのおばさんですか

 ある日の新聞の夕刊に載っていたこの『アートの伴奏者』を読んで、長年の疑問が解けたような気がした。筆者の宇佐江みつこさんは岐阜県美術館で監視員をして、自身の仕事についての秘密を明かしてくれている。監視員というのはよく美術館などに行くと、椅子に座っていて、なんだか退屈そうに見える人、それが私が抱くイメージだった。宇佐江さんもたまにお客さんから「あんたずうっと座ってて大変やなあ」と同情!?されることもあるそうだ。

 だが、本当に監視員とは「退屈な仕事」なのかと思ったら、現実は正反対なのだ。宇佐江さんも「自分がなる前は正直そう思っていた」というが、なってみたら「一日中気を張る場面の連続」だった。そもそも監視員の仕事というのは、無断撮影がないか、ペン類が使われていないか、作品に近づきすぎていないか等々を、さりげなく見張る仕事だ。第三者から見たら、なんだかつまらなそうに見えても、警戒は怠らないのがプロなのである。それにしても、椅子に座ったままじっとしていないといけないのはどうみても辛いとしか思えない。だが、仕事となれば、それどころではないのが本音なのだろう。

 この監視員という仕事、そんな仕事があるなんて、私はこの記事を読んで初めて知った。私は今までずうっと、椅子に座って皆の様子を観察している人は美術館の学芸員さんだとばかり思っていた。なぜかと言うと、たまにお客さんが展示してある作品について何やら質問している場面に遭遇し、それに懇切丁寧に対応している姿を目にしたからだった。もっともそれは外国の美術館で、滅多に日本の美術館には足が向かないのだが、いつも椅子に座ってじっと辺りの様子を窺っている人が気になっていた。

 あの人たちって、もしかして時給いくらで雇われているパートのおばさん!?なのかと思ったこともあった。特に印象に残っているのはロシアのエルミタージュ美術館で、あそこで椅子に座っている中年の女性たちは皆小さなハンドバックを抱えて座っていた。あれって、もしかして自身の貴重品、いやそれに間違いないと思うのだが、日本なら貴重品はロッカーにでも入れて置くのではないか。エルミタージュは想像もできないほど広いので、ついつい長居をしてしまうのだが、ある日おばさんが他のおばさんと交代する場面まで見てしまった。それでも彼女たちが皆パートのおばさんだと決めつけるのが私の浅はかな誤解だとしたら、とんでもなく失礼なことだ。

 宇佐江さんによると、学芸員というのは、展覧会の準備や作品の保存・研究などであちこち動き回っている人たちで、要するに忙しいのである。なので、「来館者がそんな学芸員を目にする機会は案外少ないはず」で、となると私たちが普段お目にかかるのは監視員と言うことになるのだ。そうなのか、そうだったのか、と私は膝を打った。ロシアの美術館で見たおばさんたちは監視員の仕事をしていたのだ。学芸員と監視員とをごちゃまぜにしていたとわかって長年の疑問が氷解した気分になった。

 そう言えば、私は監視員に注意されたことが何回もある。ベルサイユ宮殿で舞い上がり、バシャバシャとやたらにデジカメで写真を撮っていたら、突然男性の係員がやってきて怒られた。その時は何が何だか分からなかったが、あとでフラッシュ撮影禁止だとわかった。またある名画を近くで見たいあまりに、床に引いてある白い線を越えてしまったこともある。もちろん監視員がすっ飛んできて止められた。だが、世界中どこに行っても監視員がいるかというと、そうでもない。

 薄暗い空間に展示してある美術品は近づいてみないとよく見えない。ある時私は作品をもっとよく見ようとして、展示ケースのガラスについついおでこをぶつけてしまった。ガツンと言う音がしたので我ながら驚いた。そしてすぐに辺りを見回した。きっと誰か係員が飛んでくるに違いないと思ったが、誰も来やしない。一瞬ホッと胸を撫でおろしたが、感情の赴くままに行動するのを少しは抑えなければとも思った。

mikonacolon