人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

白内障の手術をしたら

まるで、生まれ変わったかのようによく見える

 実家に一人で暮らしているミチコさんに、久しぶりにメッセージを送ってみた。「白内障の手術するのって、今月だっけ?」。以前電話で、白内障の手術のために5回ほど眼科に通わなければならないが、車の運転は止められたので、タクシーで行くしかないと言っていた。でも、いつもランチに行く友だちがそれなら乗せて行ってあげると言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。いつもアッシーくんならぬ、アッシーおばさんをして皆を乗せて行って、日頃から徳を積んでいるミチコさんだから、この特別待遇も頷ける。

 そんなことを思っていたら、すぐに返信が来て「もう先月の20日にすべて終わった」とのこと。早速手術をした感想を聞いてみたくなり、電話をしようと思った。だがメールの最後にこれから接骨院に行かなければならないとあったので、タイミングが悪すぎるので、やめておいた。結局電話をしたのはその日夕方で、「目はよく見えるようになったの?」と尋ねると、「まるで世界が変わったかのようによく見える」との感想が返って来た。「よかったじゃない」と喜んだら、「でも、遠くは物凄くよく見えるんだけど、なんだか手元が見にくいのよ」と嘆くので少し問題もあるようだ。ミチコさんによると、新聞が普段通りに読めなくて、目が疲れるそうだ。眼科の先生には、最初は戸惑うかもしれないが、しばらくすると、そのうち慣れて違和感がなくなると言われた。元々プラス思考で超が付くほどの楽天家のミチコさんだから、「そのうちどうにかなるんじゃない」と前向きだった。

 でも、先日、ゴミの日に近所の人3人と世間話をしていたら、そのうちのひとりの人も最近白内障の手術をしたばかりだということが分かった。「遠くはよく見えるんだけど、手元が見にくいのよねえ」と正直に言ったら、その人の返答にミチコさんは目から鱗になった。「私は遠くもよく見えて、手元もちゃんと見えるようにして貰ったの」。その発言に刺激を受けてしまったミチコさんは堪らず「それって、保険が効かないから、お金がかかるんじゃないの」と言い返してしまった。するとその人は「そんなにお金はかからなかったわよ」と平然としていたので、内心では「先生からそんな話は聞いてない」のにと焦った。なんだか自分だけが損をしたようで納得がいかないが、その人は自分とは別の眼科で手術をしたのだから比べてみても仕方がない。

 思えば、自分は眼科で手術の相談をした時に、車の運転のことしか頭に無くて、「遠くがはっきりと見えるように」と先生に御願いしたのだ。たしかあの時先生は「それ以上のご要望には保険は適用されません」とはっきり宣った。なのにどうしてあの近所の人は納得のいく結果が得られて、それに比べて自分はこんな不便な思いをしなければならないのかとの考えが一瞬頭をよぎった。だが、普通の人なら、無駄に?思い悩む局面にあってもミチコさんは違った。「まあ、仕方ないか」と驚くほど楽観的なのだ。

 今までは目の表面がクリーム色の膜で覆われていて、今はその膜が取れてクリアになった感じ、とミチコさんは今の自分の目の状態を説明してくれる。まあまあ満足している様子にほっと一安心だが、眼科への交通手段がタクシーしかないことにも驚かざるを得ない。眼科の待合室で隣り合わせた人は市役所の近くにあるその眼科にタクシーで通っているという。家から眼科まで片道1800円もかかるらしく、また最近タクシー料金が値上げしたらしい。年金生活者にとっては病院通いも楽じゃない。ミチコさんは今のところは車の運転ができるからいいが、この先もっと年をとったらと思うとぞっとすると言う。外に行けない、中国の時代劇で言うところの禁足状態の最中にあっては、楽しみの濃度がぐっと下がることは否めない。果たしてそんな世界で自分は幸せなのだろうかと、自問自答している。

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