人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

フランスの日常生活に驚愕

警戒心なくしては生きられない!

 フリージャーナリストで、鍼灸師でもある浅野素女(あさのもとめ)さんが、エッセイに書いていた、「日本から知人がやって来る。大丈夫かしら」と。何が大丈夫かと言うと、なんと、「空港からうちに来る間に、貴重品一式盗まれました」なんてことになったらと心配していたのだ。このことは昔から耳にたこができるほど聞かされて、慣れっこになっていた。だから猛獣のいる穴に勇気をもって入ることはできるだけ避けて来た。要するに、空港から出ている郊外電車のRERに乗らなければいいだけのことだった。この電車でパリ市内に向かう旅行者はいわば皆お上りさんで、これから使うであろう沢山の現金をもっている。それを狙って、スリなどの盗賊団が待ち構えている。何も殺されるわけでは無いのだが、誰しもしょっぱなからすべての貴重品を取られたくはないだろう。

 空港からパリ市内に向かう交通手段は3つある。スリが待ち構えているRER、オペラガルニエまで行くロワシーバス、そしてタクシーだ。最新の『地球の歩きかた』のパリのガイドブックによると、RERは物凄く混雑しているという。その原因はモンパルナス駅まで行くバス路線が廃止されてしまったからだ。タクシーを使う選択肢もあるが、私もその方法を考えたこともあったが、断念した。なぜなら、空港からパリ市内に向かう途中でのタクシー強盗が頻発しているという情報があったからだ。これはあくまでもコロナ前に聞かされた情報だが、3年経った今もたいして変わらないのではないかと推測する。強盗はタクシーを襲い、乗客の貴重品だけを奪って逃走するので、命の危険はないと書かれていたが、果たしてそんな目に合って平気でいられるものなのだろうか。否である、誰しもそんな目にあいたくはない。そう言えば、ガイドブックに「強盗が襲ってきたら、バックを手で押さえてガードしていれば、大丈夫」だなんて記述もあったが、信じがたいことだ。

 こう書いていると、パリは何とも恐ろしい場所なのだが、石橋を叩いて渡るようにして慎重に慎重を重ねて来た私にとってのパリは楽しいところだ。正直言って、パリは怖い所という認識は私にはない。たぶんそれはたいして怖い思いもせずに今まで来たからだろう。それにスリがいるとわかっていて、それを承知で怖いもの見たさにRERに乗る人の気が知れない。私にとっては全くもって勇敢な人だ。RERに乗るだなんてありえない、タクシーも怖い、となると残された交通手段の選択肢はバスしかない。バスがどれだけオンボロで、エアコンがなくて、ガタガタ揺れっぱなしであろうとそれが何だというのだろう。無事にパリ市内に連れて行ってくれるのだから、それだけでありがたいと思わなくては。

 ところが、浅野さんの日常生活の実態を知って仰天した。『メトロの車中でスリに遭った経験はもちろん、スーパーで使ったカードの暗証番号を盗み見られて後を付けられ、家の前でバッグをひったくられたこともあった』そうで、安全安心の日本で暮らしている私にとっては青天の霹靂で、まるで別世界だ。また息子さんは『レストランで壁と自分の椅子との間に置いたかばんをまるで手品のように盗まれたこともあった』そうで、こんなことは日常茶飯事だという。

 私が一番驚愕したのは、泥棒に入られるのもまた珍しいことでもないということだ。浅野さんの家は犬たちの警護のおかげで今のところ大丈夫だそうだが、『横の家も後ろの家も、泥棒に遭っている、静かな住宅街でもこれだから、ほかはご推測あれ』と綴っている。すべてを達観したように見える、そんな浅野さんでもショックな事件がある日起こった。それは『義妹の家に泊まった時、皆が寝静まった夜中に泥棒が忍び込み、階下に置いてあったバッグやカメラを一切合切盗んでいかれた』ことで、それ以来貴重品は寝る時必ず枕元に置いておくことにしているという。何ということなのだろう、これではフランスはまるで泥棒天国と言っても過言ではない。とても信じられないことだが、彼らにとっては日本人の方がよっぽどボウ~ッと生きている信じがたい人たちなのかもしれないのだ。彼らの日常生活は、自分の身を守るための努力の連続で成り立っている。

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