人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ホテル・アギール

意外な場所に救世主が・・・

 国会議事堂の真ん前で、スリに遭いそうになったことは確かにショックだった。だが、そんなことに構っている場合ではなかった。今夜泊まるホテルが見つからないのだから。思えば、スリに遭遇したのは、これが二度目で、初めて出会ったのはひと昔前のロシアのサンクトペテルブルグだった。あの日、ネフスキー大通りのガード下を歩いていたら、いつの間にか何人かのジプシーの子供が周りにいることに気が付いた。ガードを通り抜けると、その子たちはすぐにどこかに行ってしまったようで見えなくなった。その時はあれ~?と不思議に思っていたが、少したってから、持っていた小さ目のトートバックからペンケースが無くなっていることに気が付いた。ムーミンの絵柄のついた筆箱で、あんなものを取って何になるのだろう、と呆れ果てた。物を取られたことよりも、なんだか申し訳ないような、中身を見たら、きっとがっかりするだろうなあとさえ思った。それに、少額とは言え、お金の入ったポーチだって、ちゃんとあったのに、どうしてそれを取らなかったのだろう。一体全体、どうしてなのか、いまでもわからない。要するに、私は大したものを持ち歩いていない。お金にしたって、とられても構わない程度の額しかバックに入れていない。

 それはさておき、ホテルのことしか頭にない私は、タクシー運転手のアドバイスに従って、まっすぐ歩いた。すると、大勢の人で賑わう広場のある交差点に出た。この辺りで誰かにホテルへの道順を聞きたいが、一般の人では相手にして貰えないことが多い。なので、こんな時はカフェやブテックの店員さんに聞くのに限るが、忙しそうな様子を見ると声をかけるのに躊躇してしまう。誰か、暇そうな人が居ないものかと探してみた。広場に立って目を凝らすと、いた。見るからに退屈して、ひとりで暇そうにしている若者がいた。それは街角にある携帯電話かなんかの小さなショップで、彼はカウンターにもたれて、道行く人々を眺めていた。あの人に聞いてみたらどうだろうかと思ってはみたが、果たして今どきの若者が私のようなおばさんに構ってくれるだろうかと半信半疑だった。だが、もはや選択肢がないので、勇気を出して声をかけた。すると、意外にも彼の顔は明るく輝いた、退屈していたところなのでちょうどよかったと言わんばかりに。

 ホテル・アギールを探していると言うと、ちょっと待ってとスマホを取り出し、検索してくれる。そんなのわからない、と冷たい態度を取られるとばかり思っていた私は天にも昇る気持ちだった。やはり世の中にはどこにでも救世主はいるものだ。スマホの画面を見ながら「このホテルなら、すぐそこにありますよ」と私が歩いてきた道の方向を指さす。どうやら、ホテルは私が来た道の反対側にあるらしく、いくら探しても見つからないのは、無理もなかった。予想だにしなかった今どきの若者のフレンドリーさに助けられた私は、やっとホテル・アギールの大きな看板を見つけることができた。マドリードの街中には歴史の重みを感じさせる荘厳な建物が立ち並び、アギールも例外ではなかった。看板のある建物に入ると、古めかしい階段があるので上っていく。3階ぐらいまで上っただろうか、レセプションと思われるドアが見えた。インターホンも何もないので、開けてみるとそこにスタッフの男性が座っていた。私の部屋はレセプションから一旦出て、階段を降りた2階にあった。要するに、何か問題がない限り、ホテルのフロントにはチエックアウトまで、行く用事がない。

 だが、初日に街で買い物をしてきて、自分の部屋に行こうとしたら、2階の玄関のドアが開かない。というよりシステムを教えて貰っていないだけだった。思えば、今まで泊まったホテルは逐一何でもあれこれと親切に説明してくれて、話が長かった。だが、このホテルは極めて最小限で簡単で短かった。なので、すべてわからないことは自分で聞かなければならない。朝食のサービスの有無についても何の説明もないので、無いのだと察知した。まあ、マドリードの中心のホテルに3泊で5万程度で泊まれるのだから、それぐらいのことはよしとするしかない。

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