人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

図書館と付き合い始めた

使えない奴と思っていた、図書館の面目躍如?

 図書館から「予約されていた本がご用意できました」とのメールが届いた。取り置き期限は今月の14日でそれ以降は無効になるとの注意書きがあったが、別に気が向かなければ、行かなくてもいいのでこちらの自由だ。最初から「ちょっと試してみるか」ぐらいの軽い気持ちでネット予約をしてみたら、ちゃんと返信が来て、「なかなかやるじゃない」と見直した。今まで、大変失礼な話だが、「ロクな本がない」とか「ガラパゴスと化した使えない場所」だとしか思えなかった図書館が、たちまち”使える場所”に変身した瞬間だった。移り気で欲深な性格の私はすぐに「これは利用しない手はない」と考えて、いつもは気分が乗らないはずの道を嬉々として図書館に向かった。

 図書館にでも行くのでなければ通る機会がない道を、その時はお目当ての商品を買いに行く如く、速足で歩いた。図書館の貸し出し窓口で係りの人に、ネット予約した本を取りに来たと告げるとすぐに対応してくれた。予約したのは確か『村上海賊の娘』の上巻と『国宝』の上巻の2冊のはずだったが、3冊予約されていますねと言われて戸惑った。そう言えば、10日ぐらい前、新刊の予約のとき、貸出中でもなく、予約が入っているのでもない、貸出OKの本をネット予約してみた。期待もせずに待っていたが、1週間経っても連絡が来なかったので、別の本の予約を試みてしまったというわけだった。

 新刊なら何でも人は飛びつくのかと思ったら、どうやら翻訳本はあまり人気が無いのだと初めて知った。ましてや日本では無名のエチオピアの作家の本である『影の王』は、人々の好奇心をくすぐるほど魅力的には映らないようなのだ。一般的に翻訳本は値段が高く、この本も定価が3700円で、どうしても読みたいと思わない限りレジに持って行こうとは思わない。図書館で手渡された本の表紙をパッと見て、以前大型書店にある海外文学のコーナーで見かけたことがあったことを思い出した。表紙がエキゾチックで人目を引いたからだが、何の予備知識も持ち合わせていなかったので、手に取ることもしなかった。新聞の書評や『目利きが選ぶ今週の一冊』などというコラムにでも取り上げられていれば、素通りすることなどなかっただろうが。

 3冊本を持ち帰ったが、まず手に取って読み始めたのは、当然のごとく『影の王』だった。この本の著者はマアザ・メンギステというエチオピアアディスアベバ出身の女性で、なんと7歳で単身渡米とあるのには仰天した。そんな経歴の持ち主だから、『影の王』も故郷のエチオピアの苦難の歴史を背景にして書かれた小説だと想像がつく。イタリアの軍隊が侵攻して来るという噂で持ちきりなのに、当の皇帝が逃亡してしまう。そんなことだから、兵士の士気が低迷するのは明かで、そこで皇帝を演じる身代わりが必要になるというわけだ。誰が皇帝のダミーになるか、そのことに興味津々だったが、それについてはまだ100ページ余りしか読んでいない私にも、すでに見当がついている。揺るぎない強い愛国心とリーダーとしての統率力を持った人物、である”あの人”しかいない。どう考えてみても思い浮かばないのだ。

 正直言って私は海外文学が大好きで、どちらかと言うと日本の作家の小説よりも読みたいと思う。その点において『影の王』も私の嗜好の琴線をくすぐったわけだが、誰かが言っていたように、『ここではない、どこか遠くに行ける』感覚が何より好きだ。つまり、エチオピアのすでに過去になりつつある物語の中に没入し、登場人物の存在を身近に感じて、いつの間にか時を忘れている。日常の雑多な問題を棚上げにして、今いる場所ではない場所、誰も追いかけてはこない空間に逃避できるのが何よりも魅力的だ。

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