寒さに強い身体になるために、納豆を食べる
私は思わぬ歯のトラブルで参っていた。だから努めて気にしないように、日々の日課を淡々とこなした。そうでもしていないと、情けなくて、惨めで仕方がないというような暗い谷底にいるような気分になってしまうからだ。通りを歩いていても、すれちがう不特定多数の人たちが、自分とは違って健康なのだと思って、羨ましくなってしまう。そんな普段なら絶対あり得ないような気持ちになるのを避けたかった。
何とかして冬の寒さに強い身体になりたい、でもそうなるにはどうしたらいいのか。身体を温める飲み物を飲んだり、食べたりすればいいのだと聞いたことはある。以前に生姜湯を生のショウガで試してみたら、とても飲めたものではなかった。市販の物も試してみたが、私には到底続けることはできなかった。何か費用がたいして掛からず、毎日続けられるものはないのだろうか、と探していた。そしたら、見つけた。これなら私でもなんとかなると思えるものを。
それは納豆で、実は私はこれが苦手だ。物の値段が天文学的に値上がりを続ける中で、比較的庶民派だった納豆も当然のように値上がりした。以前は108円で買えたミツカンの「とろ~っ豆」も130円近くになって買うのに迷うようになった。苦手なのにも関わらず、なぜ納豆を買っていたかと言うと、もちろん健康のためだった。今度こそ絶対食べ切ると決意して買うのに、半分ぐらいでやめてしまって、結局食べ切ることができない。まだ安い時はそれでもよかったが、値段が高くなるともう納豆のパックに手が伸びなくなった。
それなのにどうしてまた納豆を買うのかというと、それは新聞のあるコラムが原因だった。先日日経新聞の夕刊に載っている『こころの玉手箱』という記事の中に納豆についての記述があった。筆者はジャパンディスプレイ会長CEOのスコット・キャロンさんで、外国人によくありがちなことだが、納豆を長い間敬遠していた。ところが現在は大好きで、おやつ代わりにそのまま食べて、納豆本来の味を楽しんでいる。これには驚かずにはいられない。
30年もの間、嫌いで避け続けていた納豆を好きになるだなんて、一体何があったのか。興味津々で読み進めていくと、キャロンさんは新型コロナに感染して、完治はしたものの、なかなかおなかの調子が戻らなかった経験があることが分かった。発酵食品である納豆が身体によいことは知っていたので、これを良い機会と考えて納豆に挑戦することにしたそうだ。それとキャロンさんの子供たちが4人とも納豆が大好きで家にはいつも納豆があったことも追い風になった。最初はどうしてこんなものがあるのかと拒絶していたが、食べてみるとそうでもなかった。信じられないことに「悪くないじゃん」という言葉が口から出た。それ以来納豆に味を占めたキャロンさんは納豆を食べるのが日課になった。
キャロンさんの目から鱗の体験談を読んで、私は思った、納豆嫌いの私でもおやつ代わりなら食べられるのではないかと。要するにご飯と一緒に食べようとするから、嫌になって飽きてしまうのだ。早速スーパーに行って、ずらりと納豆が並んでいる棚の前で考えた。私が食べられる唯一の「とろ~っ豆」はなかったので残念だ。だが、この際そのまま食べるつもりなので、極小粒なら何でもよかった。一番安いのは3パックで69円のあづま納豆で、消費税を入れても75円だから、一日に付き25円で、となるとひと月750円ぐらいで済むので、私の身の丈に合っている。なんとかなりそうだ。
家に帰って、忘れないうちに、冷蔵庫にしまう前に納豆をそのまま食べてみる。さすがにキャロンさんのようにはいかない。何も味がないのが耐えられない。タレを入れてかき混ぜて食べると今度は味があるので食べられる。納豆と一緒に買ってきたものを冷蔵庫にしまいながら、何回にも分けてスプーンでちょこちょこと口に入れる。到底一パックは一度に無理かと思われたのに、あら不思議、綺麗に食べ切れた。少々行儀の悪い食べ方だが、この”遊び食べ”的な、つまみ食い的なやり方でもなんとか食べられることが分かっただけでも嬉しい。納豆は感染症から身を守るパワーを秘めていると聞いたことがある。確か発酵学者の小泉武夫さんが以前新聞の「食あれば楽あり」のコラムで自身の体験を通して免疫力について書いていた。だから私も冬の寒さに自らの免疫力で立ち向かってみようと思う。
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