人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

二軍のTシャツの遠征

今週のお題「二軍のTシャツ」

兄へのお土産は、自分の着ているTシャツ!?

 私は今お盆に田舎に行くための準備の真最中である。夏と言えば、持って行くのはTシャツで汗をかくから何枚あっても重宝する。一日に何枚も着替えをするから、お気に入りのTシャツは家で留守番で、そんなときは二軍の出番だ。二軍だから、質より量かと言ったら、そんなことは決してない。Tシャツのイラストも気にするが、もっと大事なのは素材で綿100%のものが一番だ。以前ポリエステルと綿の混紡のものを買ったことがあるが、汗をかいたら、ピタリと肌に張り付いて、脱ぐのが大変だった。

 だからそれ以来、Tシャツを買う時は綿100%のものと決めている。それは海外旅行でお土産のTシャツを買う時も例外ではない。必ず、Tシャツの裏についている素材が表示されている、あの小さな布切れを見つけて確認する。もしも、気に入ったTシャツが、綿100%でない時は残念だが、買うのを諦めることにしている。大事なのはそれを着て気持ちいいことで、デザインは二の次だと考えている。

 田舎への帰省にはお土産が付き物だが、会社の同僚の男性の場合はそれがTシャツだった。若い頃、お盆に田舎に帰ったとき、兄が彼がたまたま着ていたTシャツを見て、「それ、いいじゃないか!?」と言った。昔のことでそれが何のTシャツだったか、もう忘れてしまったが、自分でもお気に入りのTシャツのひとつであったことは間違いない。東北の農家に生まれた末っ子の彼は、長男で家を継いでいる兄が大好きだった。やりたい放題で気ままな彼も、長男の言うことだけには従った。その兄が、冗談なのか、それとも本気なのか、彼の着ているTシャツを褒めてくれた。案外本当に気に入ってくれているのかもしれない。そう思った彼は、「欲しいなら、やるよ」と言って、すぐにTシャツを脱いで兄に差し出した。すると当の兄はまんざらでもない様子で、嬉しそうに受け取った。それから兄嫁を呼ぶと、「これ、洗ってくれ」と手渡した。

 思えば、彼は帰省の時に手土産と言うものを買って帰ったことがなかった。独身の身軽さから、列車予約などもちろんせず、ただふらっと列車に飛び乗ればよかったのだ。着替えの荷物も適当にボストンバッグに放り込むだけで終わりだった。だから、手土産の代わりのつもりで兄にTシャツをあげることにした。正直言って、内心は兄の言葉に戸惑い、また、「俺もこのTシャツは気に入ってるんだけどなあ」というTシャツへの未練も多々あった。だが、あの兄が人のモノを欲しがるなんてことは滅多にない、そう考えたら迷う余地などなかった。結局、彼はバッグに放り込んだTシャツ2~3枚をすべて田舎に置いてきた。「これも置いて行くから、よかったら着てくれ」。

 それ以来、いつの間にかお盆に田舎に行くときはTシャツを兄のために買っていくのが習慣になった。「高いのでなくていいぞ。うちで着られればいいんだから、何でもいいんだぞ」という兄の気遣いの言葉を本気にして、彼は二軍のTシャツを持って行く。もちろん自分のお気に入りのTシャツは家で留守番で、二軍が田舎に遠征に行くのだ。

 時が流れて、彼が結婚して家族で帰省するようになっても、まだTシャツを買って持って行く習慣は続いていた。だが、最近はもうTシャツは買わなくてもよくなったらしい。その理由は兄の腹囲がとんでもないことになって、普通のTシャツが着られなくなったからだ。ある時、電話で兄が「もうTシャツはいいからな、俺は太ってしまって、腹が入らないんだ」と歎いた。それで、あっけなくTシャツのお土産は消滅したのだった。今では「どこもいいところがないんじゃない!?」と娘に呆れられる兄は、数種類もの薬を毎日飲んでいる。それでも、両親を亡くした彼は兄に長生きして欲しいと願っている。

mikonacolon