人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

旅行気分に浸るつもりが

見るだけでお得と思いきや、行きたくなった?

 東京新聞の夕刊に連載されている『ウチのげんき予報』という4コマ漫画は、読んでみると、思わずクスッとさせられることが多い。それというのも、げんき家族のおばあさんが、いつも自分の心のままに行動する姿に、妙に納得してしまうからだ。この漫画の作者である新田朋子さんは、実に観察眼が鋭い方だと感心する。例えば、ある日のテーマはサクランボだった。げんき家族はお隣から、箱に入った美味しそうなサクランボを頂いた。お母さんはこんなに沢山あるのだから、食べ切れなかったら、残りはジャムにでもしましょうかと、おばあさんに相談する。だが、お婆さんは、その後驚きの行動に出る。では、早速みんなで頂きましょうと台所の流しでサクランボを洗い始めたのだが、洗うついでに、なんとつまみ食いをしている。おそらく、こんなにあるのだから、一つや二つ食べてもわからないでしょうという誘惑からだったのだろう。

 だいたいが、あのサクランボというのは大粒のアメリカンチェリーなどと比べると、情けないほどに、あっという間に美味しい!という感覚が過ぎ去ってしまう。幸福感がはかなすぎて、虚しくなる。心配した通り、おばあさんも、初めはそんなにたくさん食べるつもりなどなかったのに、気が付いたら結構な量を食べていたというわけだ。この時のおばあさんの気持ちは手に取るようにわかる。私もおばあさんの立場だったら、きっとつまみ食いのひとつや二つは必ずするだろうから。ただ不運にもそんなまたとない幸運な機会は与えられてはいないだけのことだ。

 おばあさんの言い訳がまたふるっている。「だいぶサクランボの量が減ったから、心配することないわよ」で、つまり、ジャムにするなどという余計なことを考える必要はないと言いたいのだ。そう言われたお母さんは、呆然自失したことは言うまでもない。考えてみると、しょっちゅうげんき家族のおばあさんはユニークで突拍子もない行動に出る。でも、それは、そんなことあるある、という許容範囲を逸脱してはいないから、笑って済ませられる。時には大人気ない、まるで子供のような行動をとるときもあるが、そこはおばあさんだからということで許されるのだ。いや、許されるだなんて、大げさで、げんき家族のみんなはおばあさんを嫌っていない。それどころか、おばあさんはこの家族にとってムードメーカーともいうべき存在なのだと思う。

 さて、先日のテーマは温泉旅行で、今年はもう旅行しないと家族に公言していたおばあさんが、旅行のパンフレットを貰ってきた。お母さんが、思わず、今年は行かないはずではと口を挟むと、「見るだけで旅行をした気分になれるって言うでしょう」とおばあさんは即答する。「見るだけで済ませようという魂胆ですね」と感心し、「見てるだけで旅行した気分になりますね」と大いに納得しているお母さん。だが、一方のおばあさんの様子がなんだか変なのだ。なんと、おばあさんは「旅行したい気分になってきたかも」などと言い出した。あらら、これは大変、旅行気分に浸るだけで満足するかと思いきや、やはり、パンフレットはいやでも人の旅情を刺激するようだ。見るだけならタダでお金も要らず、経済的でお財布にも優しいと言いたかったのだろうが、そんなことでは済まされるわけがない。

 おばあさんの行動は普通の人とは真逆で、誰も皆旅行のパンフレットで旅行気分になろうだなんて考えない。そのありえない発想を漫画のネタにしているところに作者のセンスが光る。そう言えば、3年にも及んだコロナ禍では、このおばあさんのように、行けない状況の中で、見るだけで旅行気分になることができた人もいたことは想像に難くない。それにヴァーチャル映像だって利用できたし、ありえないことでもそれもありかなあと妥協することもできた。それでも、やっぱり、おばあさんは正直で素直な性格で、心の赴くままに行動する人だから、きっとリアルな温泉旅行に行ってしまうだろう。

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