人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

冷やしうどん

今週のお題「冷やし◯◯」

冷たいうどんなんて邪道、でもお客さんから要望が

 普通に考えて、暑い夏に食べたくなるのはやはり冷たい物で、冷やし○○と言えば冷やし中華だと思っていた。でも他にもざるそばとか、ざるうどんとかもあって、とろろや大根おろしなどで食ベるのを好む人も居る。元々麺類はあまり食べない私は、うどんはやはり熱い方が美味しいと決めつけていた。冷たいうどんで思い出すのは、若い頃うどん店でアルバイトした時のことだ。その店は以前は店主がひとりでやっていた洋装店だった。駅から近い商店街にある店の近くのマンションには店主の夫が経営しているファッション関係の会社があった。

 店主は故郷の石川県関連のうどんのチェーン店を始めることにした。今で言うと、はなまるうどんとかがそれにあたるが、実際はそれとは一線を画していた。もちろんうどんのもとになる玉は毎朝運び込まれてくるのだが、その平ぺったい生地を伸ばしてうどんの大きさに切り揃えていた。店は洋品店を改装した1階にカウンター席とテーブル席が二つと2階はすべてテーブル席だったが、その一角にうどんを打つ製麺室があった。夫の会社の支援もあってか、店主はどこまでも自分のやりたいようにやっていた。この店のうどんの売りは讃岐うどんのように、こしがあって、モチモチして、でもツルツルした触感もあることだった。お客さんから、「ここのうどんってさぬきうどんなの?」とよく聞かれた。そのたびに店主は「よくそう言われるけど、全く違うのですよ」と強調していた。

 店の隣はちぢれ麺で有名なラーメン屋だったが、かえってそれが新鮮な印象を与えたのか、いつの間にか常連さんも増えて来た。少し汗ばむくらいの陽気になってきたある日、常連さんのひとりが「熱いうどんもいいのだけれど、そろそろ冷たいうどんも食べたいなあ」と呟いた。その頃は冷たいうどんと言うと、ざるうどんぐらいしか想像できなかったが、それならざるそばの方が美味しいのではと勝手に思っていた。そば本来の味を楽しむのに余計な具は必要ない。それにそばよりはるかに太いうどんが、果たしてつけ汁だけで美味しく感じるものなのか甚だ疑問だった。

 ところが、あの太めのうどんがそのままでも美味しいらしく、今度はシンプルなたぬきうどんやきつねうどんでも冷やしをやることになった。調理場では連日試行錯誤の日々が続いていた。もちろん揚げ玉や油揚げは今あるものをそのまま使うのだが、かけ汁が一番問題だった。濃すぎても、薄すぎても、冷やしうどんは美味しくない。試食を繰り返した挙句の果てに、何とか厨房の皆が満足できるものが出来上がった。それで、夏限定の冷やしたぬきや冷やしきつね、冷やしおろしうどんが店のメニューに加わった。当時店の賄いでうどんをよく食べたが、冷やしうどんを食べたかどうかは記憶にすらない。それは私がそれほどうどんが好きと言うわけでもなかったのがその理由の一つだが、店のうどんの質が最高だったことははっきりと覚えている。

 後になって、うどんは薄力粉と塩だけで作れるのだと知った。まさにその事実は青天の霹靂で、以前テレビで放送されていた『一カ月一万円生活』で濱口優さんがやっていたからだ。まずビニール袋に小麦粉と塩少々を入れてモミモミする。次にそれを脚でフミフミしてならす。2~3回その動作を繰り返してから、伸ばした後包丁で細く切る。そのうどんもどきを鍋に沸かしたお湯で茹でれば完成だ。試しにそのままで食べてみたら、モチモチしていて予想外に美味しいことを発見した。意外に美味なのに感激した私はその後も何度か作って食べていた。だが、ある日突然作るのをやめた。理由は簡単で、手作りうどんの味に飽きたからだった。熱しやすく冷めやすい性格が災いして、それ以来うどんを作ろうとは一切思わなかった。

mikonacolon